月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ルクアリ。むしろ、アリルク。何だか漢前なアリエッタ。
前提として、ミュウは森を燃やしていないので、ミュウはパーティにいません。
ライガクイーンも平和に育児中。アリエッタもルークを憎んでません。
設定は、親善大使一行に不安を抱いたヴァンの命令で、アリエッタがパーティINしています。
このメンバーじゃ、ルークがアクゼリュスにたどり着くことすら無理なんじゃ…と危惧したので、アリエッタにルークを守れ、と命令。あ、ヴァンはいい人とかではないです。自分の計画のためですよ。
他、六神将もイオンを誘拐してセフィロト周りつつ、和平妨害者たちをちょこちょこ排除。
あまりに親善大使一行が無防備なので…。アリエッタの援護ともいう。
アリエッタがINしたのはバチカルなので、イオン誘拐は教団に報告したから、アニスもそっちに行って、とパーティから外してます。
なので、他メンバーはルーク、ジェイド、ティア、ガイ、ナタリアです。
注!同行者厳しめ
ピタ、とアリエッタは扉を叩こうとした手を止めた。アリエッタの耳は野生の中で育てられてきただけあって鋭い。
その鋭い耳が、部屋の中の音を聞き取った。ルークが嘔吐する、呻き声。
「……」
宿の中には連れては来られなかったため、妹は街の外で休んでいるが、彼女が側にいれば、胃液の酸っぱい匂いでも嗅ぎ取ったことだろう。
アリエッタは逡巡、迷うように首を傾ぎ、ふ、と吐息を零すと扉の前に腰を下ろした。
部屋の中の音に、気配に耳を澄ます。
今日は部屋が空いていましたから、という理由でジェイドによって一人一人に部屋を割り当てられたことに、アリエッタは疑問を持った。何故、護衛までも守るべき対象の主と別の部屋を与えられているのかと。
問えば、いつもルークのお守りじゃ、ガイだって疲れが取れないでしょう、とにべもない返答がティアからされた。アリエッタはそれ以上、問うのも抗議するのも止めた。
誰よりも抗議しなければならない護衛自身も、護衛がどういうものであるか知っているはずの、廃工場で権限を振りかざし、ルークに逆らって勝手に一行入りした王女も誰もが、それを当然だと思っていることが表情から知れたからだ。
(だから、総長、アリエッタを、ルーク様の護衛につけた、ですか)
親善大使というものをちっとも理解していない。疲れたように、アリエッタは吐息する。
自分の語彙は豊富ではなく、口調も拙いものであることを自覚しているアリエッタには、口ばかりが達者なジェイドたちを口で言い負かすのは困難で、まして、いかに非常識であるかを、自分たちの常識こそ正しいと思っているような人間に理解させることなど出来そうにない。
早々に説得も抗議も諦め、一人でルークを護衛すればいい、と結論を出したのは、バチカルを出発してすぐのことだ。
(本当に、あの人たち、どうかしてるです)
預言をヴァンから聞かされているアリエッタは、和平が成り立つことはないと知っているが、彼らは違うはずだ。和平を無事成し遂げたいと、そう思っているはずだというのに、誰もがそれを理解していない。
妨害する者たちの目を誤魔化すために、おとりとしてヴァンに海路を行かせ、自分たちは廃工場跡を進むという選択をルークを無視してしたのは、彼ら自身だ。にも関わらず、キムラスカ王族の特徴そのもののルークの髪をケープで隠すというようなことすらせず、それどころか、堂々と前線に立たせることに何の疑問も抱かないなんて。
廃工場に入るや否や、ルークを平然と前に押し出したティアを思い出し、アリエッタは眉を寄せる。リグレットの弟子だと聞いていたが、何かの間違いではないのか。
あんな女に軍人だなどと、それも同じ神託の盾騎士団に所属する身だなどと公言されたくない。それだけで恥だ。
(ルーク様は、アリエッタが守る、です)
ヴァンから命令されたからというのも理由の一つだが、それ以上に、アリエッタ自身がルークを守ってやりたかった。
ルークはアリエッタの妹を恐れなかった。道中、アリエッタが抗議しようと、人手がないからな、と護衛とは思えない台詞を吐き、ルークを自身と同じ前線に置こうとしたガイや、私が援護しますわ、と地位というものをまったく理解していない愚かな王女たちに業を煮やし、ならば、と呼び集めたアリエッタの友人たちのことも、ルークは恐れなかった。
魔物は魔物、いつこちらが襲われることになるか、と露骨に顔を顰めたティアにも、ルークは怒ってくれた。
(ルーク様は、優しい、人)
けれど、アリエッタ以外の誰もが、付き合いが長いはずの人間でさえも、そのことに気づかない。
端からルークを馬鹿にし、無知で我侭な役立たずのお坊ちゃま。そうあからさまに馬鹿にしている。自分たちの印象は正しいと、自分たちの中だけで完結し、ルークがどんな態度を取ろうと、己が抱く印象に当てはめ、何でも馬鹿にする。
そんな人間たち相手に、苛立ちを覚えない人などいない。
この一団の中で、誰よりも尊い立場にあるのはルークであり、彼は守られ、敬われて当然だというのに、誰もが彼を軽んじる。
彼らこそが和平の妨害者なんじゃないのかと、アリエッタは呆れを禁じえない。彼らの態度だけで、キムラスカはマルクトに対しても、ダアトに対しても戦争を起こす理由が山ほどある。
クルル、と部屋の中から鳴き声がした。アリエッタが一人では無用心だからと、ルークの部屋にそっと忍ばせた小型の魔物からの報告だった。アリエッタの気配に気づいてくれたらしい。
ルークの様子は?とアリエッタは人語ではなく、音で問いかける。ベッドに横になっていると答えがあり、立ち上がり、扉を軽くノックする。
「…誰だ」
「アリエッタ、です」
足音がし、ガチャ、とすぐに扉が開いた。血の気の引いたルークの顔が、隙間から覗く。
何だよ、と首を傾ぐルークに、アリエッタは微笑んだ。
「様子、見に来たです」
「…大丈夫だよ」
ばつが悪そうに顔が逸らされたのは、きっと今の今まで吐いていたからだろう。その理由に、アリエッタは薄々気づいていた。
昼間の戦闘は、魔物が相手のものではなく──人間が相手だった。
和平の妨害だけではなく、ファブレ家に恨みを持つ人間が相手だった。
貴様の父親に俺の兄は殺されたんだ、と憎悪に燃える瞳を、男はルークに向けた。
そんな男の息子が親善大使だなんて、認められるか。そんな和平、壊れちまえばいい。男は禍々しい声で叫んだ。
そのときのルークの顔を、ルークを背後に庇いながら、盗み見たアリエッタは覚えている。
蒼白い、今にも倒れそうな顔をしていた。足も手も震えていた。
人間から憎悪を向けられたことなど、初めてだったに違いない。
アリエッタはそんなルークの目や耳を塞いでやれなかったことが、悔やまれてならなかった。
(…わかってる、です)
そんなことをしたところで、何の解決にもならないし、これから先だって、また同じようにルークへと憎悪を向ける人間が現れないとも限らない。
それでも、塞いでやりたかった。けれど、自分の背はそれには足りなくて。手も小さくて。
出来ることは、一つ。速やかに男を『排除』することだけだった。
「ルーク様、喉、渇いてないですか?」
「え?」
「アリエッタ、喉、渇いちゃったです。お茶、付き合って、もらえますか?」
緋色の目を柔らかく細め、ルークの答えを待つ。
たとえ、ルークがその胸のうちを吐露してくれなくとも構わない。ただ一人でいて欲しくない。それだけだ。
きっとこれは自分の我侭なのだろう。
だけど、イヤなの、とアリエッタは思う。今のルークを一人になんてしたくない。苦しんでいるルークの側にいたい。
温かい紅茶で少しでも、少しでも苦しむルークを癒すことが出来たなら。ルークを支えられたなら。そう思う。
(アリエッタは、もう、後悔…したくない、です)
イオン様を失ったとき、アリエッタのイオン様を失ったとき、アリエッタは後悔に後悔を重ねた。喉から血が吹き出そうなほど、泣き叫んだ。
もっと出来ることがあったんじゃないのか。もっと早くに気づいていれば、イオン様を救えたんじゃないのか。
どれだけ泣いても叫んでも、そんな後悔は尽きなくて。
今でも、アリエッタの胸には後悔が巣食い、アリエッタを苛んでいる。
だからこれ以上、後悔をしたくはなかった。
イオンを失ってから初めて、守りたいと思ったルークを、アリエッタの胸に温かい何かをくれたルークを支えたいと、そう思う。
「アリエッタ、紅茶淹れるの、得意です」
桃色の髪をふんわり揺らし、手を差し出す。ルークが躊躇うように翡翠の目を揺らし、やがて苦笑を零した。
ルークの手が、アリエッタの小さな手に重なる。
ぬくもりが、二人の手のひらに伝わりあう。
「…ミルク、たっぷりな」
「お任せ、です!」
きゅ、とルークの手をしっかりと握り、紅茶の用意が済ませてある自分の部屋へと向かって引く。
ルークが小さく小さく、ありがとう、と呟いたのを、アリエッタが聞き逃すことはなく。
アリエッタはこくん、と頷き、微笑をルークに向けた。
ルークの目元がほんのりと朱を帯びた。
END