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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2009.06.16
ss

子アシュルク。
フラジール」の対のような話です。
「フラジール」はED後、すべて終わったあとにアッシュが、でしたが、こっちは始まる前、二人が子どものころにルークが、の話になります。
抽象的なお話。




夢の中、アッシュは、座り込んで俯いている少年の姿に気がついた。背中を丸め、一心不乱に何かをしている。
その背中は、朱色の髪で覆われていた。

「……」

そっと近寄り、何をしているのかと、少年の手元を覗き込む。小さな手が、危なっかしい手つきで針と糸を操っているのが見えた。
ピン、と枠に張られた布に、少年は一所懸命にチクチクと何かを刺繍しているらしい。そのうち、指に針を刺してしまうのではないか。そんな不安を抱かせるほど、少年の手元は覚束ない。

「お前、何してるんだ?」

この少年は何者なのだろう。
小首を傾げ、アッシュは俯く少年の顔を覗き込んだ。翡翠の目に飛び込んできた顔に、ヒュッと息を呑む。
朱色の髪に縁取られた顔は、アッシュと瓜二つだった。

「お、まえ」

レプリカなのか…?と震える声で訊ね、アッシュはそろそろと朱い髪に手を伸ばす。そっと指先が髪に触れる。熱いわけがなかったのに、アッシュは熱された鉄板にでも触れたかのように慌てて手を引いた。
少年は変わらず、チクチクちくちく。刺繍に夢中だ。

(なんで、俺がこいつの夢を)
レプリカの夢を見ているのだ。
憎め、あれがお前の居場所を奪ったのだ。
ヴァンの声が耳に木霊する。憎め。憎め。
アッシュはごくりと唾を飲み、勢いよく朱色の髪を掴んだ。やはり、熱くはない。
ホッと息を吐き、ぐい、と引っ張る。少年は眉根を寄せはしたものの、抵抗することも、抗議の声を上げるでもなく、チクチクと刺繍を続けている。

「お前のせいで、俺は…ッ!俺を見ろ!」

叫び、強く髪を引っ張る。少年が緩慢な動きで顔を上げ、アッシュを見た。
澄み切った曇りのない翡翠の目に、アッシュの手から力が抜ける。サラリサラリ。朱色の髪はアッシュの指から零れ落ち、少年の肩に掛かった。
少年がまた視線を落とし、チクチク、針を動かし出す。

「…何なんだよ」

お前は何なんだ。
アッシュは頭を抱え、髪を掻き乱した。この夢は何だ。このレプリカは何をしている。
うう、と呻き、後ずさる。
と、アッシュの目に少年が持つ糸が留まった。

「……」

それは、ぼんやりと淡い光を放っていた。紅い光を、放っている。キラキラキラキラ。綺麗な糸だった。
あの糸で出来上がった刺繍は、一体、どんなものになるのだろう。そんなことを思う。
どんな図柄が出来上がるのだろう。あんな綺麗な糸で作るのだ。きっと綺麗なものに違いない。

「…何を刺繍してるんだ」

アッシュの問いに、返事はなかった。視線すら、少年は向けてこない。
黙々と黙々と、酷く大切そうに一針一針を布に刻んでいる。
何一つ、抜かりがあってはいけないのだというように。
翡翠の目を見開いて、針と糸と指と布とを見つめている。

「……」

アッシュはゆるりと息を吐き、少年の前に力なく座り込んだ。少年の手は、やはり危なっかしい。
丸っこい指先に針が刺さってしまわないといいが、と思う自分に気づき、ギクリとアッシュの身体が強張る。
レプリカは、憎む者。憎むべき対象。忘れるな。ヴァンの声が頭に響く。夢の中だというのに、頭痛がする。

「う、うう」

痛む頭を抱え、アッシュはぱたりと倒れた。少年は手を差し伸べてはこない。
代わりに哀しげな表情が幼い顔を過ぎり、唇が動いた。
おれ、がんばるから。
そんなふうに動いているように、アッシュには思えた。





夢の中、ルークはぼんやりと椅子に座っている少年に気がついた。紅い髪をした、自分とよく似た少年に、恐る恐る近づいていく。
そろりそろり、手を伸ばし、紅い髪に触れる。少年の髪は乾いていて、指で梳こうとするとすぐに引っ掛かってしまった。

「お前、だれ?」

なんでこんなに自分に似ているのだろう。
ゆるりと首を傾ぎ、じ、と少年の顔を覗きこむ。
少年の翡翠の瞳は昏く、焦点が合っていない。どこかルークにはわからぬところを眺めている、そんな遠い目をしている。
ひらひら、手を振ってみても、少年は反応しない。
まるで人形みたいだと、ルークは思った。

『──その子は、心が壊れてしまったのだ』
「だれ?!」

不意に響いた声に、怯えながら周囲を見回す。キラキラと煌くような焔が、ルークの前に下りてきた。
焔は揺らぎながら、少年を柔らかく照らしている。

『我は、ローレライ』
「ロー…レライ?」
『ああ、そうだ。我が愛し子よ。お前に頼みがあるのだ。お前にしか出来ぬことなのだ』

哀願するような声に、ルークは大きな目でぱちくり瞬く。一体、自分に何が出来るというのだろう。自分にしか出来ないこととは何だろう。
屋敷での生活が、幼いルークの脳裏を過ぎる。誰かに必要とされたことなど、ない。誰もが諦めたように吐息し、期待など抱かれたこともないのに。
みんな、早く記憶が戻ればいいのに、とそれしか、自分に願うことはないのに。

『お前だからこそ、出来ることがあるのだ、ルーク』
「おれ、だから?」
『そうだ。──この子の心を紡げるのは、お前だけだ』

その糸が見えるだろう?
ローレライが揺らめき、少年の胸を指差す。ぽぅ、と少年の胸が光り、淡い紅い光を放つ塊がそこに浮かんだ。
翡翠の目を大きく見開き、ルークは少年に近寄り、その塊にそろりと手を伸ばす。塊は、糸が絡み合って出来ているのがわかった。
ぐちゃぐちゃに絡み合い、塊は歪んでしまっている。

『それを手に取るのだ。それはその子の心そのもの』
「…すっげー、ぐちゃぐちゃ、だけど」
『それを解いてやって欲しい。そして、新しく形作ってやって欲しいのだ』

解くのは、やれないことはない。時間は掛かるだろうが。
けれど、形作るとは?どうすればいいのかと、ルークは戸惑いに視線を揺らす。
ローレライが人に似た形を作り、ルークへと真っ白な布と枠、そして、針を差し出した。

『その糸で、お前の思うようなこの子の姿を、刺繍してくれればいい』
「おれ、ししゅうなんて、したことないよ?」
『我には記憶がある。それをお前に貸そう』

ぽぅん。
ローレライから光が零れ、ふわふわ漂い、ルークの額にス、と消えた。入り込んできたのは、刺繍の仕方。
夢ってすげぇ、とルークは呆れたような感嘆したようなため息を吐いた。

『頼む、ルーク』

ローレライの懇願に、ちらりとルークは少年へと目を向けた。
血の気の失せた頬、哀しげに翳る目。あの目が笑ってくれるのを、見てみたい。ふと、そんな気持ちがルークのうちに生まれる。
この少年も、このままでは可哀想だ。自分が助けられるのなら、自分にしか助けられないというのなら、精一杯がんばってみよう、と一人頷く。

「おれ、がんばるよ」

糸が絡み合い、こんがらがった少年の心を、ルークは慎重な手つきで優しく解き始めた。





ちくちくチクチク。
今日も朱色の少年は、アッシュのすぐ側で針を動かしている。初めて見たときよりも、少年は随分と上達したように思える。
少年は、今日も一心不乱に刺繍している。少しずつ、何か形作られているようだ。それが何かは、まだわからない。
けれど、一針一針、大切に布に煌く糸を通していく少年を見つめていると、気持ちが安らいでくるのだ。
己のレプリカを、憎め。
ヴァンの声はまだ鼓膜に残っている。だが、アッシュはもう目の前のレプリカを──ルークを憎むことが出来なかった。
小さく笑みを零す顔。失敗したと悔しげな顔。そんな顔を見ているうちに、レプリカだからと蔑むことが出来なくなった。
だって、同じなのだ。違いなどないのだ。
自分と同じようにルークは笑い、悲しみ、怒り──感情がある。愚かな人形だなんて、ヴァンのように嘲ることなど、出来ない。

「何のために、そんなに頑張ってるんだ?」

ルークの顔を覗きこみ、アッシュは首を傾げた。
ルークがちら、とアッシュを見やり、また針を通す。ルークの翡翠の目が、柔らかに細められ、丸っこい指先がアッシュを指した。

「…俺のため?」

こくん、とルークが頷き、そうだよ、とあどけない声で答えた。
にこりと、ルークの顔に笑みが浮かぶ。
そうか、とアッシュは釣られたように笑んで頷き、ルークの手元を覗き込んだ。
布の上に、赤々と燃え上がる焔が、現れていた。

「…出来上がるのが、楽しみだ」

あとちょっとなんだ、とルークが嬉しげに微笑む。アッシュも頬を緩め、煌く紅い糸がルークの手で焔へと変わっていくのを見つめていた。


END

 

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