月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
パラレルアシュルク。
現代物かつ、擬獣化。
飼い主アッシュと愛犬ルークの話。
「逆らえない」(アッシュ視点)
「早く早く」(ルーク視点)
の二本立てです。
逆らえない(アッシュ視点)
ちょん、と太腿に前足が乗った。
パソコンの前の椅子に腰かけているアッシュは、ちら、とその前足を見やり、前足の主の顔を見た。
きらきらと目を輝かせ、一心に自分を見つめている愛犬ルークと目が合う。
「……」
ジー…ッ。
ミニチュアダックスフントであるルークは、長い胴を伸ばし、短い前足をちょこん、とアッシュの腿に揃えて乗せている。
長いふさふさとした尻尾が、ぶんぶんと勢いよく左右に振れ、風を起こしていた。
「…ルーク、俺は仕事中なんだが」
だから、抱っこは後だ。
ぽん、と小さな頭を撫で、垂れた耳を少しばかり擽り、前足をそっと握って、床に下ろす。
ルークの尻尾が力なく垂れ下がり、耳もさらに垂れ下がる。
「きゅう、キュンキュウン、きゅうんっ」
切なげにルークが鼻で鳴き、訴えてきた。
きゅんきゅん、鳴き声は止まない。
アッシュ、アッシュ、と呼ばれているようで、アッシュのキーボードへと置いた手が止まる。
「~~~ッ」
耐えきれず、アッシュは視線をルークへと落とした。
咎めるように眉間に皺を寄せるが、ルークはアッシュが自分を見てくれたこと自体が嬉しくて仕方ないというように、尻尾をまた振り始めている。
ぴょん、とルークの身体が飛び上がり、太腿に前足が乗った。
期待の籠った視線が、肌に痛い。
「…暑くないのか、お前は」
冷房を入れるほどではないが、初夏となった今は、毛皮を纏ったルークを抱くにはどうにも暑い。
パソコンから発される熱もあるから、なおさらだ。
けれど、ルークは暑くないらしい。
お願い、と言わんばかりに、小首を傾げ、熱い視線を注いでくる。
つ、と視線を逸らす。
また、きゅうんきゅうん、とルークが鳴いた。
「……くっ」
ここで負けてはいけない。
ここで負けるから、ルークに抱き癖がついてしまっているのだ。
こんなに、甘えたになってしまったのだ。
だから、と思いながらも、アッシュの手はひょい、とルークを抱き上げ、膝に乗せていた。
「……何やってるんだ、俺は」
額に手を当て、天井を仰ぐ。
嬉しげに、ルークが狭い腿の上で丸まる。
すると、今度は腕が欲しい、とアッシュを見上げ、前足を腕へと伸ばしてきた。
「…ルーク」
じーィ。
つぶらな瞳で見上げてくる目から、目を逸らせない。
目の前の仕事の締め切りは、明日だ。猶予はない。
「…はぁ」
片手では仕事の効率は悪くなる。
だが。
「ワンッ」
尻尾を嬉しげに振られた上、輝かんばかりの瞳を前にしてしまえば、逆らうことは出来ない。期待に応えてやりたくなるというもの。
ため息を零し、アッシュは左腕をルークの顎の下に差し入れてやった。
ぽふん、とルークの顎が乗る。
くぅん、と嬉しげにルークが鳴いた。
「…暑い」
ぽつりと呟いてみるが、ルークは暑さなどよりも、自分とくっついていられることの方が重要らしく、満悦の態で目を閉じている。
心なし、笑っているように見えるから、不思議なものだ。
「やれやれ」
本当に愛しい愛犬だと、アッシュは苦笑し、ルークの背中を優しく撫でた。
ルークの尻尾が、ぱたぱたと揺れた。
END
早く早く(ルーク視点)
ケージの中にアッシュが置いてくれた専用のベッドで、おとなしく丸まりながら、ルークは耳を澄ませていた。
マンションの廊下を歩いてくる、アッシュの靴音が聞こえないか。
玄関のドアの鍵を、アッシュが回す音がしないか。
リビングのドアが開く音がしないか。
「…アッシュ、まだかな」
早く早く帰ってこないかな。
ルークは寂しげに、ぴすぴすと鼻を鳴らし、項垂れる。
今日は、アッシュがクライアントのもとに赴く日で、ルークは留守番だった。
一緒に連れて行ってくれないかな、と思ったのだけれど、電車で出かけなくてはいけないらしく、連れて行ってはくれなかった。
ちぇ、とため息を吐く。
早く帰ってこないだろうか。
ケージをアッシュが開けてくれたら、尻尾をぶんぶん振って、飛びついてやる。
だって、寂しい。寂しくて仕方ない。
「…アッシュ」
いい子で留守番していたな、と褒めて欲しい。
頭を撫でて欲しい。
抱き上げて欲しい。
キスも欲しい。
ご褒美だと、おやつもくれたら、なお嬉しい。
「うー」
ルークはころん、とベッドの中で転がった。
ころん、ころん、と寝がえりを打つ。
鼻をくんくん、鳴らし、ルークは部屋の中のアッシュの残り香を嗅ぎわける。
アッシュの匂いに、心が慰められる。
と、同時に、早くアッシュに会いたくて、さらに寂しくなってきた。
きゅんきゅん、切なげにルークは鳴く。
けれど、アッシュはまだ帰ってこない。
「……嫌いになっちゃうぞ、アッシュのバカ」
そんな悪態を呟いてみる。
呟いたところで、本当に嫌いになんてなれないけれど。
アッシュに名を呼ばれたら、もうそれだけで嬉しくて、尻尾だって、ぶんぶん振ってしまう自分を、誰よりもルーク自身がよく知っている。
ルークはため息を零し、身体を起こすと、ベッドから抜け出て、ケージに置かれた水を入れた皿に近寄った。
舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと音を立てて、水を飲む。
水は温い。暑くなってきたなぁ、とルークは思う。
(もっと暑くなったら、アッシュ、アイスくれるかな)
去年の夏は、犬用に売っていた、とアイスを買ってきてくれた。
あれは、ひんやりしていて、美味しかった。
また買ってきてくれるといいな、とルークは水がついた鼻先を舌でぺろりと舐めた。
「早く帰ってこないかなぁ、アッシュ」
ちら、とケージの中から、リビングのドアを見つめる。
アッシュの足音はまだ聞こえてこない。
鍵が回る音もしない。
早く帰ってきて、ただいま、ルーク、と笑って欲しい。
ルークはまたベッドに戻り、丸くなると、目を閉じた。
たとえ、眠っていても、アッシュの足音を聞き逃さない自信がある。
瞼の裏に、アッシュの姿を思い描く。
今度、このベッドの中に、アッシュの靴下でも、持ってこよう。
アッシュの匂いがすれば、退屈で寂しくて仕方ない留守番も、少しは楽しくなるかもしれない。
いい夢が、見られそうな気もする。
「…大好き、アッシュ」
だから、早く早く帰ってきてよ。
ルークはアッシュの夢が見られるといいな、と思いながら、眠りに落ちた。
END