月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
上から順番に並んでます。
それぞれ独立したssです。
SWEETS TIME:エンゲーブでのルークたちの一コマ
二人の『父親』:ライフェアの父親のこと
吟遊詩人は腹を空かす:シンゲンINケセドニア
以上の3本をまとめて載せてありますー。
※表示がおかしい、という報告を頂き、修正しました(汗)
なんで右側切れるような事態になったんだろう…。
気をつけますー。
報告くださった方、ありがとうございました。
SWEETS TIME
ポンッ、とフライパンから跳ね上がり、くるりと回って、またフライパンへと着地したパンケーキに、ルークは賞賛の目を向けた。
たいしたことはしてないんだけどなぁ、とフェアは苦笑する。
フェアの隣でカスタードクリームとリンゴのシナモンソテーを仕上げているライが、そんなルークに皿を並べてくれるか、と頼んだ。
こくりと頷き、いそいそとルークが五人分の皿を宿屋の借りた厨房に並べる。
「ライ、焼けたよ」
「おう、こっちも出来た。あとは盛り付けだな」
三つ子として生まれた兄と妹は、てきぱきと慣れた手つきでこんがり狐色に焼けたパンケーキを飾り立てていく。
一枚目の上にはたっぷりとカスタードクリームと切ったイチゴ。
その上にもう一枚重ね、ホイップクリームをこんもり塗り、リンゴのソテーを脇に添え。
最後にハチミツをたらり。
すべてエンゲーブ産の食材で作り上げた一品だ。
「紅茶も入ったわ」
テーブルで茶器を整え、紅茶を淹れていたティアがひょこ、と厨房に顔を覗かせ、三人に言った。
ナイスタイミング、とライがにかっ、と笑う。
「さ、運びましょ」
「すっげー、美味そうだな…!」
「そう言ってもらえると、作ったかいもあるってもんだ。な、フェア」
「うん、ライ」
兄妹の笑みと美味しそうなパンケーキの香りに、ルークとティアの顔も綻ぶ。
四つの皿をテーブルに運び、もう一枚の皿は厨房を貸してくれた宿の主人へと運ぶ。
最後の一枚に乗ったパンケーキは、甘さ控えめのパンケーキだ。
同じようにリンゴのソテーが添えられているものの、クリームはなく、代わりにラム酒がさっと掛けられ、バターがパンケーキの上に乗っている。
「おじさん、厨房貸してくれてありがとう!これ、お礼にどうぞ」
「おお、こりゃうまそうだ。ありがとな、嬢ちゃん」
「いえいえ」
芳しいラム酒の香りに笑みを咲かせる主人に、皿とナイフとフォーク、コーヒーが乗ったトレイを差し出し、フェアはぺこりと頭を下げた。
同じく宿と食堂を経営する者として、客とはいえ、見知らぬ人間に好意で厨房を貸してくれた主人に礼をしないわけにはいかない。
片付けも完璧だ。
むしろ、使う前よりも綺麗にするのは当然だと、ライとフェアは考えている。
たとえ、一期一会であろうとも、人との出会い、繋がりを二人は大切にしたいのだ。
もちろん、それはルークやティアとの出会いにも言える。
右も左もわからないこの世界で、自分たちに何ができるか、それはまだわからない。
何をするべきかも、わからない。
それでも。
(それでも、私もライも、一生懸命、頑張るだけよ)
巡りあった人たちのために。
友だちとなった、彼らのために。
「フェア、早く来いよ!食べちまうぞ!」
「あ、待ってよ、ルーク!今行く!」
食堂から響くルークの声に返事をし。
フェアは小走りでルークたちのもとへと急いだ。
甘い香りを漂わせるパンケーキと暖かな湯気を立ち昇らせる紅茶、そして、みんなの笑顔の待つ場所へ。
END
二人の『父親』
ライとフェア。
息がぴったりと合った連携で道を切り開く二人の姿に、ルークはティアとともに見惚れた。
二人とも、自分より年下なのに、自分よりも華奢な身体をしているのに、どうしてああも強いのだろう。
魔物の最後の一匹を仕留めた二人に、ルークは足を速めて近寄った。
「なぁ!」
「ん?」
「どうしたの、ルーク」
「どうして、二人はそんなに強いんだ?」
どういう修行したんだ、と二人に詰め寄る。
二人は一瞬、顔を見合わせ、ため息を零した。
きょとん、とルークの目が丸くなる。
「…あのバカ親父のせいよ」
「そう、あのバカ親父が身体は鍛えとけって、ガキのころから何かと仕込んできやがったからな…」
「必要に駆られてっていうのもあるけどね。…でも」
「ああ」
二人の眉が吊り上り、ぎり、と拳を握りこんだ。
唐突に顔を険しくさせる二人に、ルークは首を傾げ、一歩後ずさる。
ティアもまた、訝しげに眉を潜めた。
「一度も…まだ一度も、あのバカ親父に勝てたためしがなくて…ッ」
「リャーナだかなんだか知らねぇが、ぜってぇいつか、ギッタギタにぶちのめす…!」
「頑張ろうね、ライ!」
「頑張ろうな、フェア!」
ガシィッ、と腕を絡み合わせ、決意を固める兄妹を前に、ルークの頬がひくりと引き攣る。
見れば、ティアも同じような顔をしている。
「…なぁ、ティア。あいつらの父親って、どんな奴なんだろうな」
「……少なくとも、一般的な『父親』ではなさそうね」
ライとフェアの二人を打ち負かす上、あそこまで嫌われている父親とは一体、どんな人間なのだろう。
知りたいような、知りたくないような。
なんにせよ、関わらないですむならそれに越したことはなさそうだ、とルークはティアと頷き合った。
リィンバウムの片隅で、はっくしゅん!と男のくしゃみが響き。
『キャプテン、汚イデス』と旅の友ににべもない台詞を吐かれていたのは、別の話。
END
吟遊詩人は腹を空かす
この青い空の下のどこかに、本当にあの少女はいるのだろうか。
シンゲンは、はぁ、とため息を零し、三味線を爪弾く。
「ああ…。御主人たちが炊いてくれたご飯が食べたい…」
一粒一粒が立った、あの米の甘さを存分に引き出したつやつやと輝く真っ白なご飯。
苦心の末、作ってくれた漬物を乗せ、食べたときの美味さは筆舌に尽くしがたい。
もちろん、味噌汁も忘れてはならない。
あのご飯を、可愛い愛しいフェアを前に、食べるはずだったのに。
それが気づけば、こんな砂埃が舞う地に落とされていて。
渦巻く活気は身に合うが、あの完璧な白米には今のところ出会えていない。
ぐぅ、とシンゲンの腹が鳴る。
味を思い出してしまったせいで、涎も口中に溜まっている。
ああ、フェアやライは、今ごろ、どこにいるのだろう。
ビィン、と虚しく三味線が音を立てた。
「…おや、珍しいもんを持ってるじゃないかい。三味線とはねぇ」
艶めいた声に、シンゲンは顔を上げた。
三味線を知っているとは、珍しい。
この世界に来てからというもの、この相棒の名を知る者に出会ったのは初めてだ。
そこにいたのは、婀娜めいた美女だった。
辛酸を舐めてきた女だと、シンゲンは眼鏡の奥で目を細める。
「一曲、頼めるかい?」
「もちろん、喜んで」
三味線を持ち直し、故郷の曲を弾く。
ベンベベンベベン。
三味線の音が、ケセドニアの街に響いた。
女が目を閉じ、音に聴き入る。街行く人々も、変わった、だがどこか懐かしい音色に足を止める。
が、それもシンゲンが唇を開くまで。
「あ、あ~」
明らかに三味線の音から調子のずれた音に、女が慌てて耳を塞いだ。
人々もその場から慌てて立ち去っていく。
女の手が、ピシリとシンゲンの頭を叩いた。
「おやめ!」
「あいてっ!」
「三味線はいいのに…なんて歌だい」
三味線が可哀相だと、頭を振る女に、そう言われてましても、とシンゲンは叩かれた頭を撫でる。
自分は吟遊詩人だ。歌わなければ、話にならない。
そう言えば、女が嫌そうに顔を顰めた。
「今すぐ、吟遊詩人なんておやめ。三味線だけで十分…いや、三味線だけにしな!」
「ええッ、そんなご無体な…!」
それだけは、と口にしたところで、シンゲンの腹の虫がまた鳴った。
そういえば、ここ二日ほど、まともに食事をしていない。
歌い出すたびにそれまでは足を止めていてくれた客がそそくさを離れていってしまうため、集まる金も少ないのだ。
力が入らない、とシンゲンは崩折れる。
女がはぁ、と深くため息を吐いた。
「うちに来な。酒場をやってるからね。何か食わしてやるよ」
「ええっ、いいんですか!」
「ただし、三味線の演奏と引き替えだ。歌はなしだからね」
「うぐ…、し、仕方ない」
「それに…」
ぐ、と女が顔をシンゲンへと近づけてくる。
何ごとかと眉を潜めれば、赤い唇に弧を描き、女が囁いた。
「あんた、かたぎの人間じゃあないみたいだしねぇ?」
「……」
「まあ、あたしも似たようなもんさ。腕も立つようだし、持ちつ持たれつ、さ」
おいで。微笑し、先を行く女の背を見やり、さてどうしたものかと腕を組む。
確かにあの女もかたぎの人間には見えない。だが、そう悪い人間でもなさそうだ。
この三味線の音を気に入ってくれたようでもあるし。
それに、今は少しでも情報が欲しいところでもある。
召喚される経験がある自分とは違い、ライとフェアの二人にそれはない。
早く、見つけて側にいてやりたいのだ。
──それも出来るならば、ギアンやセイロンといった恋敵たちよりも先に。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですかねぇ」
シンゲンはぽつりと呟くと立ち上がり、着物についた埃を払い、三味線片手に女の後についていった。
END
女はもちろんノワールさん。