月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ティアルク。
捏造ティア。幼いころからローレライと意思疎通が可能で、ローレライに愛されてます。
軍人の道は端から考えておらず、ほかの道を十歳になる寸前で選んでます。
キムラスカも公爵など捏造。ユリア・シティも捏造。
預言の定義も捏造してます。預言絡みの話を書くときは、預言の在り様というか、範囲というか…悩むんですが、この話を書くに当たってさらに悩みました。
なので、そのあたりがこう捏造過多というか、自己解釈が入っています(汗)
注!ガイに厳しめ
ダアトからファブレ公爵家へとやって来た栗色の髪を肩まで伸ばした少女は、ルーク・フォン・ファブレ付きのメイドとなった。
ファブレ公爵は当初、その少女を、息子の遊び相手にはするつもりだったが、メイドにするつもりはなかった。行儀見習いとはいっても、ティアは他の奉公として上がってきている下級貴族出身のメイドたちと違い、大切な預かりものに近かったからだ。そんな預かりものを記憶を失くし、赤子同然となった息子のメイドにするのは幾らなんでも無体というもの。そう思ったからだ。
時は少しばかり、遡る。場所はキムラスカ王城。
だが、謁見の間ではなく、内密の話を交わすときにも使われている王の私室だ。そこで、クリムゾンはメシュティアリカ・アウラ・フェンデという少女に紹介された。公爵家にて預かって欲しい、と。
メシュティアリカは、聖女ユリア・ジュエの直系の子孫であるばかりか、ローレライと意思疎通すら可能であり、ユリア・ジュエの再来とすら言われている少女である。
それだけに、その存在は秘匿されており、クリムゾンもインゴベルトに紹介されるまでは、メシュティアリカの存在を知らなかった。
そんな少女を預かれ、とは一体、どういうことなのかと、クリムゾンはインゴベルトに戸惑いがちに訊ねた。
「彼女はローレライから惑星預言を聞いたのだ」
インゴベルトはやつれていた。唐突に年を取ったかのように。
クリムゾンもまたその預言の内容を聞かされ、愕然とした。何しろ、メシュティアリカが口にした預言は、オールドラントの滅亡の預言だったからだ。
メシュティアリカはティア・グランツと名を変え、キムラスカへとやって来た。滅亡の預言を回避するために、と少女は言った。
そのために、鍵となる『聖なる焔の光』を守るためにやって来たのだと。
そのための力も、ティアはローレライから与えられていた。譜歌の力である。ローレライの加護を一身に受けるティアの譜歌の威力は、既に他を圧倒するものであり、そればかりか、譜術師や音律師にとって、どうしても発生してしまう致命的な隙である詠唱中も、ティアは第七音素の壁に守られることで回避できるのだ。
ティアは、ルーク・フォン・ファブレの護衛にしてください、とインゴベルトとクリムゾンに頼んだ。二人に断ることなど出来るわけがない。
何しろ、相手は幼いながらに世界に欠かせない重要人物であるのだ。ダアトやユリア・シティからの後押しもある。
そして、ティア・グランツはクリムゾンの立会いのもと、ルークと出会うことになった。
*
「…ルークは記憶を失くしているのだ。誘拐の預言など、詠まれていなかったのだがな」
「それはそうでしょう」
「どういう意味だろう?」
ティアをルークの部屋へと案内しながら、クリムゾンは首を傾ぎ、ティアを見た。ティアはさらりと髪を揺らし、蒼い瞳を向けてきた。
顔つきはあどけない少女のものだが、その瞳に宿る光は強い。ティアの意志の強さを、クリムゾンは感じ取る。
「ルーク様を誘拐したのは、ヴァン・グランツ──私の兄だからです」
「なんと…!グランツ殿が?!」
年若いが、剣の腕に秀でている、信頼を寄せている青年の顔がクリムゾンの頭を過ぎる。ルークもまた、あの男を信頼していた。
ルークがこうもすんなりと誘拐されてしまったのも、ヴァンが動いていたのだと考えれば、納得がいく。だが、クリムゾンは信じられぬ思いで、ティアに戸惑いの目を向けた。
「兄にはローレライと会話する能力はありません。ですが、ユリア・シティには一度詠まれた預言ならば、その預言を譜石に刻むことが出来る譜業があります。兄は市長の義理の孫という立場を利用し、それを用いて、おそらくルーク様の預言を詠み、預言の隙を突いたのでしょう」
「預言の、隙…?」
「…二千年の間にオールドラントの人々は預言に耽溺してしまいました。人々は預言に頼り、預言に書かれていない不測の事態には対処出来ません。兄はルーク様に詠まれた未来の預言の中で、預言が詠まれていない日を狙ったのだと思います。預言に詠まれていない日には、何が起こっても不思議ではありません。預言が詠まれなければ、人々はそれに縛られませんから。預言の強制力は働かない」
淡々と話すティアに、言葉を失う。ティアの言は正しい。
確かに、何も起きぬと預言に詠まれた日の警備は、白光騎士たちも気が緩んでいる。預言は一週間に一度、まとめて預言師に詠ませているが、一日の出来事を事細かに詠ませているわけではない。天気などは、まとめて教会から発表されているから、会議や何かしら起こる事件の中で、ファブレとキムラスカに特に関わるような内容だけを詠ませているのだ。
クリムゾンの背筋に寒気が走った。預言に詠まれていない時間帯。そこを突いて狙われることは、警備の穴を突かれるに等しい。
ヴァン・グランツがルークの誘拐に成功したのも、そういうことなのか、とクリムゾンは項垂れた。
「…預言に頼ることは、油断を引き起こすことでもあるのだな」
「……」
ティアは何も言わなかったが、沈黙こそが答えに思われ、公爵は一人、苦笑う。
預言は絶対のもの。その考えを改める必要がある。それに、そうでなければ、世界も──息子も救えない。
「兄には、何か目的があったはずです。ルーク様を誘拐しなくてはならない何かが」
「ふむ、調べさせよう」
「お願いします。──兄…いえ、ヴァンが何を企んでいるのか。それを、探らないと」
ティアの眉根がきゅ、と寄る。苦痛を覚えているその顔は、兄を慕っているからこそだろう。
慕っているからこそ、兄の不穏な動きに胸を痛めているのだ。信じることが出来ない辛さを十にもならぬ少女が覚えるには早すぎる。
クリムゾンは労わるようにティアの肩に手を置いた。ティアが気恥ずかしそうに薄っすらと頬を染め、ぺこりと頭を下げる。気立てのいい娘だと、クリムゾンは内心、微笑んだ。
(しかし…どういう扱いにしたものか)
ティア本人は使用人としてでも扱ってくれればいいと言っているが、ユリアの再来とすら言われる少女を使用人扱いするのは、さすがに躊躇われる。かといって、あからさまに厚遇すれば、ティアの正体を訝しむ者が出てくるだろう。
ティアがメシュティアリカであることを知られるのは、具合が悪い。メシュティアリカの存在は現在、秘匿されているとはいえ、フェンデ家がユリアの子孫であることを知らぬ者がいないわけではないのだ。
例えば、今は滅んでしまったホドの出身者。ホドの生き残りの中には、フェンデと付き合いがあった者もいるだろう。また、マルクトにもフェンデの記録が残されていないとは限らない。
ダアトの内部にも、ローレライの加護を受けるティアの存在を疎ましく思っている者もあれば、手に入れたいと思っている者もいる。そんな者たちから守るためにも、ティアの正体を知られてはならない。
(遠縁の者だとでもして、礼儀作法の勉強のために来た、とでもすればいいか)
そのあたりが、妥当だろう。必要ならば、戸籍をでっち上げてもいい。
ルークの部屋の前まで来ると、割れんばかりの泣き声が扉を突き破って響いてきた。また癇癪を起こしたらしい、とクリムゾンは額を押さえる。
ティアはしばし呆気に取られたようだが、すぐに気を取り直し、扉をコンコンとノックした。扉が開き、姿を見せたのは、ルークの世話係を命じているガイだった。
「これはクリムゾン様!あの、ルーク様でしたら、今は…」
ガイの説明を受けずとも、わんわんと鳴り響いている泣き声を聞けば、状況は一目瞭然。クリムゾンは苦笑し、ガイを下がらせる。
ティアへとちらりと視線を向ければ、ティアがこくりと頷き、部屋へと入った。ガイが訝しげな視線を向けるのに構わず、ティアはベッドで暴れるルークへと近寄り、ゆっくりと唇を開いた。
「…!」
ティアの唇から流れ出したのは、美しい、流れるような旋律だった。譜歌ではなく、子守唄だったが、息を呑むほど澄み切った声に、クリムゾンは呆然と立ちすくむ。
ガイも同じらしく、目を瞠り、ティアを見つめている。
ルークの癇癪もぴたりと止まり、大きな翡翠の目を零れんばかりに見開き、ティアをじ、と見つめた。ティアがにこりと微笑み、歌を止め、ルークの前で頭を下げた。
「初めまして、ルーク様。私はティア…って、きゃあ!」
ティアは最後まで名乗れなかった。その前にルークがベッドを飛び上がり、ティアに抱きついたからだ。
子ども同士、あまり身長の変わらぬルークに抱きつかれ、ティアの身体が大きく傾ぐ。クリムゾンは慌てて走り寄った。
どうにか倒れこむ寸前でティアの身体を受け止めることが出来て、ホッと息を吐き、ルークを睨めば、ルークはキラキラと翠の瞳を煌かせ、ティアを見つめていた。
小さな手が、しっかとティアの腕を掴んでいる。
「あ、あの、ルーク様?」
「ティー…ア?」
「えっと、はい、そうです。ティア、です」
「ティア!」
嬉しそうに笑いながら、ルークがぎゅう、とティアを抱き締める。ティアが顔を真っ赤に染め上げ、わたわたと暴れているが、もう倒れる心配はないようなので、クリムゾンはそっと二人から離れた。
戻ってきてからというもの、誰にも懐かなかったルークが、あっという間にティアに心を許し、懐いたことに少しだけ切なさと軽い嫉妬を覚えながら。
(やれやれ。ずいぶんと懐いたものだ)
きゃらきゃら笑いながら、ティアに甘えるルークに、ティアが慣れない手つきで頭を撫でてやっている。
端から見ていると、仲のいい姉弟のようだ。何とも微笑ましい。二人とも造作が整っていることもあり、一枚の絵画になりそうだ。
一人悦に浸っていれば、何だよ、とぽつりとガイが小さく呻いたのが、クリムゾンの耳を掠め、クリムゾンはちらりとガイを一瞥した。
ガイの顔には、苛立ちが見て取れた。わからないではない。ルークはこれまでガイにまったく懐いてこなかったのだから。
その理由が記憶喪失にあるとクリムゾンは思っていたが、ガイの目に過ぎった凍てついた光を見るに、そればかりではないのかもしれないな、と考えを改める。
ガイは、付き合いのある貴族が、両親を失くした遠縁の子なのだと説明し、腕のいい庭師とともに雇ってくれと押し付けてきたのだが、素性を洗いなおした方がいいかもしれないと、クリムゾンは頭に書き留めた。
「あの…クリムゾン様」
「何だろう?」
「もしご迷惑でなければ、私をルーク様専属のメイドにして頂けますか?」
ガイが何を、と言い掛けたのを片手で制し、ふむ、と顎を撫でる。
ティアには主にルークの遊び相手をしてもらいながら、遠縁の貴族として扱おうと思っていたが、護衛の意を兼ねるなら、四六時中、一緒にいても違和感のないルーク付きのメイドにした方が都合がいいのは確かだ。
だが、ティアはまだ子どもだ。さすがに大変なのではないかと、クリムゾンは眉間に皺を寄せる。
けれど、ティアは首を振り、微笑んだ。
「私には両親がおりませんから、幼いころから出来ることは一人でこなしてきました。祖父も兄も忙しい人ですから、家事も一通りこなせます。それに、故郷では幼い子たちの面倒も見てましたし」
ですから、お任せ下さい、とティアが深く頭を下げる。その間も、ルークはティアにべったりと張り付き、離れようとしない。
ガイが冗談じゃないと言わんばかりにルークに手を伸ばしたが、ルークは怯えたようにガイの手を払い、ティアにしがみ付いた。
翡翠の目に、ガイへの警戒心と恐れが覗いていた。一瞬、虐待でも受けていたのかとクリムゾンは目を眇め、ルークの身体を確かめたが、どこにも怪我らしい怪我はない。どこかを痛がっている様子もない。
ならば、ルークは何を恐れているのか。
ルークの態度が、クリムゾンを後押しし、クリムゾンはティアに向かって、頷いた。
「そこまで言うのなら、君に任せよう」
「ありがとうございます!」
ホッとした顔を浮かべたティアの顔は年相応に見え、クリムゾンの頬を緩ませる。
ティアは精一杯頑張りますから、とルークの手を握り、笑みを浮かべた。ルークのあどけない顔にも、満面の笑みが浮かぶ。
ルークの笑顔を久方ぶりに見たな、とクリムゾンは緩みそうになる涙腺を叱咤した。死んでしまう子だからと目を逸らし続けてきた己に、嫌悪と憎しみが湧く。
(だが、まだ間に合うのなら)
息子と向き合いたい、と強く思う。向き合わねば、と思う。
それは自分だけではなく、妻であるシュザンヌにも言えることだ。彼女も預言を知る身だ。
そして、その預言の悲しみとそれを息子に強いる罪悪感から、ルークを可哀想だと嘆いて逃れている。憐れむことで、少しでも罪悪感を感じまいとしているのだ。
逃げる時は、もう終わった。これからは立ち向かう時だ。
「ガイ、行くぞ」
「……かしこまりました」
硬い声音に、クリムゾンはガイへの不審を募らせる。早くガイの素性を洗い直した方がよさそうだ。
表立ったお抱えの親衛隊である白光騎士団とは別に、ファブレ公爵家には代々、裏の仕事を任せるための黄昏騎士団も存在している。彼らに任せれば、すぐに探り出してくるだろう。ヴァンに関しても、一刻も早く探らせなければ。
クリムゾンは一人頷き、ティアに歌をせがむ息子と、聖女のように微笑みながら歌を紡ぐティアに目を細め、ぱたん、と扉を閉じた。
閉じた扉から聞こえてきた歌声は柔らかく、優しさに満ち溢れていた。
END
ルークがティアに懐いたのは、ティアがローレライの加護もあって、第七音素に好かれるからです。そんな裏設定。
で、このあと、調べた結果、アッシュの存在を公爵は知って、愕然。
秘密裏に保護し、会いに行きます。まだ洗脳が浅かったことと、ティアの力でローレライの加護を与えられたアッシュはルークにわだかまりを残しつつも、ヴァンの目的を探るためにダアトに残って…といった感じかな。
父に愛されているとわかったアッシュは強いと思うんだけどなー…。
ルークはティアに懐きながら成長して、ティアが初恋でー…っていう。
他の同行者はそのままなので、ティアがすごく苦労人になりそうです。