月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
アシュルク。
捏造PTで、アッシュとルークの仲間はジョゼットとアスランの二人です。
和平条約の場でイオンが奮起。アッシュにも協力を仰ぎ、ここぞとばかりに同行者たちの罪を暴露して、護衛交代となりました。
なので、ロニール雪山のパッセージリングの操作に当たるPTはアッシュ、ルーク、ジョゼット、アスラン、他白光騎士やマルクト兵となってます。
そんな前設定。
注!同行者厳しめ
いつものように定期連絡のつもりで、アルビオールの助手席に座ったアッシュは、ルークに呼びかけた。
アルビオールの窓からアッシュが眺める空は灰色で、いつもと変わらぬ景色に何の感慨も抱くことなく、ルークの応答を待つ。
頭痛に耐えながら、ルークは興奮した声を返してきた。一体、何事かと眉を顰める。
ルークの声ははしゃいだものだ。危険が迫っているわけではないらしいことに、ホッと安堵の息を吐く。
『アッシュ、今、俺の視界、共有できる?』
出来るなら、早く早く。ルークが喚く。
何なんだ、と呆れながらも、アッシュは言われたとおり、音素を調整し、ルークの視界を共有した。
途端に、飛び込んできたのは。
「──ッ」
同じくアルビオールに乗ったルークが窓から見ていたのは、夕焼けだった。白い雲をオレンジ色に染め上げる朱色の太陽が目に眩しい。
広がる雄大な空は太陽を中心に少しずつオレンジから紫、青へと色を変えていく。
自然が描くグラデーションは美しく、今まで見たことがあるどの空よりも美しかった。
『すっげー綺麗だよなぁ』
アッシュにも見せてやれてよかった。
ルークが屈託なく笑う。
(…ああ、こいつの世界は)
ルークの目で見る世界は、なんて。
目尻に滲んだ涙を、アッシュはギンジに気づかれぬよう、そっと拭った。
*
次のセフィロトのために訪れたケテルブルクで束の間の休憩を取りながら、アッシュはゆるりと首を巡らせた。
隣を歩くルークの横顔を見つめる。視線に気づいたルークが首を傾ぎ、アッシュを見やった。二人の足元で、さくさくと雪が崩れる。
「何、アッシュ?」
「ふと、思い出したことがあってな」
気を利かせたのだろう、護衛として今、旅をともにしている仲間であるジョゼットとアスランの二人は側には控えていない。けれど、気配は感じるから、ひとたび、何かが起これば、二人ともすぐに駆けつけられる位置にいるのは間違いない。
二人ともそつがないな、とアッシュは思い──すぐに首を振った。
違う、これが当たり前なのだ。護衛が守るべき対象から目を離しては護衛の意味がないのだから。
(あいつらは本当にどうしようもなかったがな)
以前、ルークが旅の同行者とするよう、強いられていたガイたちは、護衛のイロハをまったく理解していなかった。ルークがアクゼリュスまで無事に辿り着いたのは、奇跡に近い。いつ和平妨害の刺客や盗賊に襲われたとしても、おかしくなかった。魔物に食い殺されていたとしても、おかしくなかった。
彼らは平然とルークを前衛に立たせていたのだから。
護衛が聞いて呆れる。和平条約の場でルークのために口を開いた導師イオンと、イオンによって入室を許可された自分の報告で明らかとなった彼らが犯した不敬罪や護衛の放棄などの所業の数々に、ガイたちは処罰され、護衛は変わったのがだが、本当に彼らがルークにとっていかに負担であったか、今の屈託のないルークの笑顔に、アッシュは思い知らされる。
だが、今、外殻大地降下作戦を完遂するべく、ルークの護衛に当たっている二人は、当然のこととして、ルークに剣を握らせることすらさせない。そんな暇すら与えないという方が正しい。彼らの実力は確かなものだ。
「以前、お前、俺に視界を共有させたことがあっただろう。夕焼けが綺麗だとか言って」
「あー…、うん、あったね、そんなこと」
「あのとき、思ったことがある」
お前の目で見る世界は、なんて美しいのかと。
アッシュの言葉に、ルークが翡翠の目をぱちくりと瞬かせる。照れたように頬を掻き、そうかな、と視線を泳がせるルークに、アッシュは力強く頷いた。
本当に、美しかったのだ、あの夕焼けは。
「今まで見たことのあるどの景色よりも美しかった」
溢れる色彩に、息を呑んだ。涙すら出そうになった。
側でアルビオールを操縦しているギンジがいなかったなら、きっと自分は頑是無い子どものように泣いていた。
筆舌に尽くしがたい光景だった。
「…へへ、何か嬉しいなぁ」
「何がだ?」
「アッシュが俺と同じもの見て、綺麗だって思ってくれたのがさ。何か、くすぐったいけど…幸せっていうか」
へら、と相好を崩し、ルークが頬を赤らめる。寒さからではなく、嬉しさから頬を赤らめるルークに、アッシュの頬が自然と緩む。
唇に笑みを滲ませ、アッシュはルークの肩に落ちた雪を払った。
「お前は強いな、ルーク」
「なんだよ、いきなり」
「…お前が見てきたのは、美しいばかりの世界じゃなかっただろうに」
心無い言葉に傷つけられ、孤立し、ただひたすらに一心に信じた師からは裏切られ。ルークは苦しんだはずだ。絶望したはずだ。今だって、時折、アクゼリュスの悪夢に魘されている。
恐ろしい景色を見、恐ろしい言葉を聴き、恐ろしい人間たちに囲まれていたのに、それでも、ルークが見つめる世界は美しい。
だから、強い、とアッシュは思う。絶望したルークの世界からは、色彩が失われたとしても、きっと不思議はなかっただろう。
事実、一度、自分の世界からは色が消えた。幼いころ、繰り返された超振動の実験や化け物と罵る声に。ヴァンに攫われ、ダアトに幽閉され、洗脳まがいの虐待を受けて、自分の世界は灰色になった。
ずっとずっと、この翡翠の目で見る世界は、灰色だった。赤や翠がどんな色だったかも、忘れてしまったほどに長い時間、自分の世界からは色彩が失われていた。
二度と戻らないのだろうと思っていた。自分は死ぬまで灰色の世界で生きるのだろうと思っていた。
アッシュ──聖なる焔の燃えカスには、なんて相応しい世界だろう、と自嘲を漏らしたこともある。
だが、それはあの日、終わった。憎んできたはずのレプリカの──ルークの目を通して世界を見たときに。
アッシュにも見せてやれてよかった、と嬉しげに笑う声に。
世界をそれでも愛するルークのおかげで、自分はまた世界に希望が持てた。
溢れた色彩は、灰色をすべて染め上げた。今、自分の翡翠の瞳には、愛しい朱色が映っている。
「お前は本当にこの世界が好きなんだな」
微笑を浮かべるアッシュの手を、ルークがしっかと握ってきた。握り返し、ルークの笑顔を見つめる。
綺麗な笑顔だと、アッシュは思った。
手が、胸が、温かかった。
「だって、この世界には大好きな人たちが生きているから。だから、俺は世界が好きだよ」
ジョゼットに、アスランさん。ミュウに、ノエルに、ギンジが生きる世界。
たくさんの掛け替えのない人たちが生きる世界。
何より、アッシュが生きている世界だから。
大好きなアッシュと一緒にいられる世界だから、俺はこの世界が好きなんだ。
にこにこと、照れくさそうにしながらも、満面の笑みがルークの顔に溢れる。
温かくて、優しくて、愛しくて。綺麗で柔らかなルークの色だ。
民家の壁に身を寄せ、ジョゼットが肩を震わせているのが、アッシュにはちらりと見えた。
あれは涙を耐えているのだろう。自分も同じだから、よくわかる。アスランも身を隠し、打ち震えているかもしれない。
ギンジやノエルたちも今のルークの言葉を聞いていたら、きっと泣いていただろう。
──こみ上げてくる喜びと愛しさに耐え切れずに。
「俺もだ」
お前が生きる世界、お前とともに生きる世界。
この世界を、愛しく思う。この世界に生まれてきて、やっとそう思えた。
「じゃあ、頑張らないとな、アッシュ」
「ああ、世界を滅ぼすわけにはいかないからな」
笑みを交し合い、アッシュは強くルークの手を握った。
この手が、自分と世界を繋いでいる。決して離すまい、と一人誓う。
眼前に広がる、煌く白銀の世界。そこで笑う朱色の半身。
この色を二度と失うものか。二人でともに、自分たちは生きていく。
「ありがとう、ルーク」
紅い髪をさらりと靡かせ、アッシュは心から微笑んだ。
END