月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
「優しいぬくもりの子守歌」
ルクノエ。
ノエルに子守歌を願うルークの話。
ノエルのルークへの思い。
注!ティアに厳しめ
歌を歌ってくれないかな、ノエル。
躊躇いがちにルークが頬を掻き、アルビオールの点検をしていたノエルに頼んだ。
ノエルは目を瞠り、たじろぐ。
「私が、ですか?」
「うん」
「でも…私でいいんですか?」
ノエルの脳裏に、ティアが過ぎる。
歌ならば、音律師である彼女こそ本職だ。
実際、ティアの歌声は澄んでいる上、音が伸びやかで美しいと、ノエルは思う。
ティア自身、己の歌声には絶対の自信を持っているらしく、自分がティアを差し置いてルークに歌を聞かせたと知ったならば、間違いなく不快に思うはずだ。
私に言えばいいじゃない、と自分を睨み、ルークに詰め寄る姿が容易に浮かび、ノエルは内心、苦笑う。
ティアには、ルークを自分のものだと思っている節がある。
そこに、ルークの気持ちなど、一切、酌まれていない。
ルークに歌って欲しいと頼まれることは嬉しいけれど、後でルークが困ることになるのは嫌だ。
だから、名前こそ出さなかったが、他に適任がいるじゃないですか、とノエルは断ろうとした。
が、ルークのほうで察してくれたらしい。
ルークが苦笑を零し、首を振った。
「ティアの歌は確かに綺麗だけど…それだけだから」
「それ、だけ?」
「そう。…ティアの歌は、優しくない」
一瞬、ルークの翡翠の目が昏く翳る。
ノエルは息を呑み、胸を抑えた。
きゅう、と攣れるように胸が痛む。
ルークの心には、自分が知らない大きな傷がある。
自分がルークと出会う前に負った傷だ。もしそのとき自分が側にいたならば。
何も知らない身ではあるけれど、少しだけでも守れたのではないだろうかと、ノエルは哀しくなる。
今でもその傷は、血を流している。流し続けている。
そうでなければ、ルークがこんな顔をするわけがない。
苦しみも悲しみも痛みも何もかもが詰め込まれて、感情が麻痺してしまったような顔を、するわけがない。
「ノエルの歌なら、眠れる気がするんだ」
隈が浮いた目を細め、ルークが淡く笑う。
ノエルはぎゅ、と痛む胸を押さえつけてから、わかりましたと頷いた。
ホッとしたように、ルークが息を吐く。
幼い子どものように嬉しそうに笑うルークに微笑み、ノエルはアルビオール内に用意しておいたマットを床に広げ、ブーツを脱いで、その上に座った。
ルークにもどうぞ、と、ぽふ、とマットを叩いて促す。
頷いたルークもまた靴を脱ぎ、マットに上がった。
「さあ、横になってください、ルークさん」
ぽんぽん、と自分の腿を叩き、ノエルは立ったままのルークを見上げて微笑んだ。
ルークが呆けたように口を開けた。
「遠慮せず、頭を乗せてください」
膝枕に、ルークの頬が朱に染まる。
あちこちに視線を泳がせ、でも、とか、だけど、とか繰り返している。
ノエルはルークの手をきゅ、と握った。優しく、その手を引き寄せる。
ルークがそろそろとしゃがみこみ、いいのか、と戸惑うような目をノエルへと向けた。
ノエルの頭が、こくん、と傾ぐ。
二度、三度、瞬き、ルークがようやく身体を横にし、ノエルの腿に朱色の頭を乗せた。
ルークの頬は、赤く染まっていた。
「下手でも、笑わないでくださいね」
こほん、と咳払いをするノエルの頬も、朱に染まっていて。
ノエルは、化粧っ気はないが、淡い桃色の唇を開き、柔らかな音色の子守唄を紡ぎ始めた。
ルークの胸で、子守唄のゆったりとしたリズムに合わせ、手を弾ませる。
「……」
優しい微笑を湛えるノエルに見守られ、翡翠の目がとろりと緩んでいく。薄く開かれた唇から、ほぅ、と安堵の息を漏らし、深い、安らかな眠りに、悪夢に囚われるばかりだった子どもは落ちていった。
その唇に滲む穏やかな微笑に、ノエルは笑みを深め、どうか、と祈りを込めながら、子守唄を歌い続ける。
朱色の髪に指を滑らせ、優しく頭を撫でる。
(どうかどうか)
この優しく、悲しい人が、幸せでありますように。
安らかで、ありますように。
少女は恋しい少年の寝顔に愛しげに目を細め、切に歌った。
END