月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
「風に舞う花」
アシュルク。
世界でたった二人きり、雪原で戯れる二人の話。
ローレライを始め、音素集合体たちに愛されている二人です。
注!同行者厳しめ
アッシュの右手を左手でしっかりと握り、ルークはにっこりと笑んだ。
何をする気だ、と訝しげに眉を寄せるアッシュに、こうするんだよ、とアッシュと手を繋いだまま、後ろへと倒れこむ。
不意を突かれたせいで、アッシュもまたバランスを崩し、仰向けに倒れこんだ。
「ははっ」
「うわっ」
倒れた身体への衝撃はわずかなものだった。それもそのはず、二人の身体はぼふっ、と降り積もった柔らかな雪に受け止められたからだ。
アッシュが一言言ってから、倒れろ!と怒鳴る。
ルークはけらけら笑い、だって、とアッシュの手を握る手に力を込めた。
お互いに手袋をしているけれど、アッシュの手のひらの熱が伝わってくるようだと、ルークは翡翠の目をうっそりと細める。
「一度、やってみたかったんだ。前に子どもたちがやってるの見て、楽しそうだなーって」
「…お前だって子どもだろう」
「んー…」
ぽつりと呟くアッシュに、曖昧な笑みを返す。
自分を七歳の子どもとして見てくれる人など、アッシュくらいのものだろう。
実際、少し前まで旅をともにしていたティアたちは、記憶が七年前からしかないのだと言っても、それを本当の意味で自覚してくれはしなかった。
一瞬、思い出して、おしまい。
その場限りの反省だけで、それが長続きすることはなかった。自分にとって都合が悪くなれば、あっさりと忘れていた。
誰よりもルークが七年分の記憶しか持っていないことを知っていたはずのガイやナタリアでもそうだった。
彼らは一様に、ルークの精神にも、外見に相応しい年齢を求めた。
唇を歪めるルークに、アッシュが眉根を寄せる。
そんな顔しなくていいよ、とルークは翠の目を細め、柔らかな笑みをアッシュに送った。
アッシュがそんな顔をする必要なんて、どこにもない。
アッシュが傷つく必要など、ないのだ。
「冷たいね、アッシュ」
「雪、だからな」
「うん。でも、気持ちいい」
「そうか」
「空も綺麗だなぁ…」
ふんわりとした新雪に半ば埋もれたまま、二人揃って空を見る。
ケテルブルクの空は、分厚い灰色の曇天で覆われているのが常であるにも関わらず、二人の上に広がっているのは、澄み切った青い青い空だった。
凍てついた空気に、空の青さが際立っている。
「ローレライ、頑張りすぎじゃないのかなぁ、あれ」
「頑張ったのはシルフじゃないのか?」
「ああ、そっか」
ありがとう、シルフ、とルークは右手で空に向かって手を振る。
優しい風が吹き、雪原を撫でていく。
ふわりと舞い上がった雪が、細かな粒となり、日の光を受け、キラキラと煌いた。
わぁ、と二人の唇から、感嘆の声が上がる。
「綺麗だね、アッシュ」
「ああ、本当にな」
「…ふふ」
「どうした?」
「幸せだなぁ、と思って」
世界で、二人っきり。
こうして手を繋いで、真っ白な雪に埋もれていることが幸せだとルークは笑う。
誰も邪魔する者はいない。
ルークからアッシュを奪う者はいない。
アッシュからルークを奪う者もいない。
──ああ、なんて幸せな世界!
ルークは目を細め、幸せそうにくすくす笑う。
アッシュもまた目を細め、幸せそうに微笑んだ。
「ああ、幸せだな、ルーク」
「うん」
人が消えた世界で、互いだけが唯一無二の二人は微笑む。
繋いだ手をしっかりと握り合い、幸せそうに笑みを交わす。
紅い髪、朱の髪。
二色の髪を絡ませて、番のように寄り添って。
「静かだね」
「ああ、二人っきりだからな」
うん、とルークは頷き、二人を祝福する音素たちに穏やかな笑みを向けた。
ありがとう、とその唇が小さく感謝の音を紡いだ。
END