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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2009.03.23
短編

シンルク。
アクゼリュス後、ルークをユリアシティで攫っていったシンクの話。
うちのシンクはルークを攫いすぎじゃないのか。
かっこいいシンクを目指しました。ええ、目指してはいます。
オチというか、シンクに設定がありますが、それは最後に。

注!同行者厳しめ(アッシュ&イオン含)






パンとミルクを、シンクはルークに向かって突き出した。受け取れよ、とぶっきらぼうな口調で言い、部屋の隅で膝を抱えたまま、俯いているルークを見下ろす。
ルークの顔がゆるりと上がり、ことりと首が傾いだ。濃い隈が目の下に浮き、頬のこけた顔からは、生気が感じられない。翡翠の目からも、光が消えている。
自分もレプリカなのだと教えて、半ば、無理矢理、ユリアシティからこの隠れ家に連れて来たが、ルークはここに来た二日前から、ずっとこの状態だ。何も食べようとしない。かろうじて、砂糖水を口に含んではいるが、それだけだ。
このままでは、衰弱して死んでしまうかもしれない。

「レプリカだって、食わなきゃ死ぬんだよ」
「……」

反応のないルークに苛立ったように鼻を鳴らし、シンクはパンとミルクをルークの足元に置くと、テーブルへと戻った。
椅子にどかりと腰掛け、自分の分のパンを齧る。ドライフルーツとクルミがたっぷりと混ぜ込まれたフルーツブレッドは、噛むたびに、ドライフルーツの甘みが舌の上に広がった。
クルミも香ばしく、歯が当たると、カリッと割れる。
パンで水分が奪われた口の中を潤すために、次にミルクを口に含む。味の濃いミルクはほの甘く、シンクは満足そうに息を吐いた。
けれど、ルークは相変わらず、膝を抱え、動かないままだ。パンにも手をつけなければ、ミルクを口に含むこともない。

「…ねぇ、死ぬ気なの?」
「……」
「あんたが死んだって、アクゼリュスの連中は生き返らないと思うけど」

ビクッ、とルークの肩が跳ねた。ただでさえ青い顔から、さらに血の気が引いていく。
今にも倒れるのではないかと思うほど、ルークは唇を戦慄かせ、ガタガタと身体を震わせた。

「お、おれ…おれは…ッ」
「あんたにだって、責任がないとは言わないよ。ヴァンを信じたのは、あんたなんだし」
「……」
「だけどさ、全部が全部、あんたが悪いわけじゃないだろ。無知は罪だなんて言う奴もいるけどね、あんたの仲間たちみたいに。何にも教えないで、よく言えたもんだと思うけど。厚顔無恥ってのはあいつらのような人間を言うんだろうね」

だって、そうだろ、とシンクはまたパンを歯でむしるように齧る。天然酵母が使われた生地にはほのかな酸味があり、ドライフルーツの甘みを引き立てている。
皮もパリッと焼けていて、シンクが気に入っているものの一つだ。
被験者は嫌いだが、あの腕のいい、頑固者のパン屋は嫌いではない。

「あんたが何を聞いたって、馬鹿にしてくるだけだったんでしょ?それで無知もないじゃないか。知らないから、知ろうとしてるってのに。無知っていうのはさ、教えようとしない周りにも、罪があるもんだとあんたたち見てて、つくづく思ったよ」

救いようがない阿呆というのは、あいつらの方だ。
シンクは瓶に注がれたミルクでパンを押し流し、嗤う。
このミルクを売っている牧場の親子も、嫌いではない。買い求めに行くたびに、満面の笑みでありがとうございます!と母子揃って頭を下げてくる。このミルクの味に似た、あの温かな笑みは、嫌いではない。
だから、ここに隠れ家を求めたのだ。美味しいパンに美味しいミルク。人のいい被験者たち。
レプリカだと知られれば、彼らの対応は変わるかもしれないが、隠れ家は少しでも居心地がいいほうが好ましい。神託の盾騎士団での心労も、癒されるというものだ。

「…なんで、俺を連れてきたんだ。俺がレプリカ、だからか?」
「そうだね、あんたがあいつらの道具にされるのを見るのが不快だってのいうのも、理由の一つだよ」
「道具、って…」
「あいつら、あんたのことを見捨てたんだって、わかってる?でも、早晩、あいつらも気づくだろうね。あんたにはまだ利用価値があるって。何しろ、あんたはアッシュの完全同位体で超振動が使えるんだしね。使いようによっては、無比の軍事兵器になる。それに、ルーク・フォン・ファブレっていう名自体にも、政治的な価値があるし」
「それは…俺、の名前じゃ…」
「でも、今はあんたがルークだ。そりゃ、音素とかいろいろ調べれば、被験者かレプリカかわかっちゃうけど、見た目ではわからないんだし、あんたを立てて、キムラスカの王は民に親善大使がマルクトに殺された、と嘘を吐いて戦争を起こしたんだ、と謀反を起こすことだってできるかもね」

ああ、それも悪くないかな、とシンクはくすくす笑う。
あの我が侭で身勝手で、目先のことしか見えないゆえに、城を抜け出したことでメイドや騎士たちの処罰を招いたお姫様も、失ったものに固執するあまり、それが本当に価値あるものだったか知ろうともせずに、レプリカを憎むしか能のない鮮血も、顔色を失くすに違いない。
そして、声高に叫ぶだろう。それは偽者、レプリカだ、と。
その後のことなど、彼らは考えない。目の前のレプリカを排除することしか考えられないからだ。馬鹿正直に前に突き進むことしか彼らには出来ない。
壁を迂回するなんて考えはないのだ。邪魔なものは壊してしまえ、排除してしまえ。彼らはそんな連中だ。そして、そんな方法こそ、最善だと疑いもしない。
あの頭の悪いお姫様や、他人を蔑み、批判することしか出来ないユリアの子孫を筆頭に、己らこそが正義だと、疑いもしないのだ。

(大体、アッシュは何て答えるつもりなんだか)
では、被験者であるお前はどこにいたのだと、何をしていたのかと問われたら、何と答えるつもりなのか。シンクは不思議でならない。
六神将としてタルタロスの乗員を皆殺しにしてました、とでも答えたならば、傑作だ。あるいは、カイツール軍港襲撃の主犯だと、キムラスカ中に知られてしまうのも愉快だろう。それでも、キムラスカの王はアッシュをルークだと認めるだろうか。
あの王ならば、それもありえない話ではないが、本来なら、自国に牙を剥いた王族など、人知れず、消されるだけだ。

瓶をちゃぷん、と目の前で揺らす。
瓶の内側を、白い膜を張って、ミルクが滑り落ちていく。
その向こうで、愕然と目を見開くルークの顔が見えた。

「俺、…俺」
「死んだ方がいいんじゃないか、とか言わないでよ。何で、あんたが被験者たちのために死ななきゃいけないのさ。まあ、僕だって気に入ってる被験者はいるし、気持ちはわからないでもないけどさ」

だけど、彼らのために死ぬなんて、考えたこともない。
にこりとシンクは微笑み、ミルクを飲み干した。空になったガラス瓶を、ぽーん、と放る。
綺麗な放物線を描き、瓶はゴミ箱に落ち──ガシャンッ、と割れた。

「レプリカはレプリカ、被験者は被験者。僕たちは相容れない」
「……」
「だったら、好き勝手に生きたっていいと思わない?あっちだって好き勝手してるんだしさ。今のこの状況だって、被験者が好き勝手した結果じゃないか」

それも、二千年も前からだ。
瘴気が発生したのも、被験者が譜術戦争を起こした故だ。その瘴気を消すことを諦め、ただ封じ込めてきたのも、被験者の判断。
そして、瘴気の存在を忘れ、のうのうと二千年もの間、預言に頼る生活を諾々と繰り返してきたのも、被験者だ。

「シンクは、被験者が嫌いなのか」
「ああ、まとめて括れば、嫌いだね。でも、さっきも言ったけど、一人一人で見るなら、嫌いじゃない被験者もいるよ。そういうもんでしょ。だから、レプリカだって、…まあ、そもそも少ないけどね、嫌いな奴は嫌いだし。特に嫌いなのは、七番目だけど」
「七番目…?」

訝しげに首を傾ぐルークに、ああ、とシンクは頷き、ずっとつけっ放しだった仮面に手を掛けた。
仮面を外し、膝に落とす。さら、と前髪が額に落ち、視界に掛かった。
ルークがひゅっ、と息を呑んだ。

「その、顔」
「僕は導師イオンのレプリカなんだよ、ルーク。それで、七番目ってのは、あんたたちがイオンって呼んでたやつのことだよ。…あんたのことを友だちだって言いながら、助けることを諦めた、ね」

くっ、と口の端を吊り上げ、シンクは皮肉めいた笑みを零す。ルークがぎゅ、と拳を握り、俯いた。
イオンは、と言い訳のように、ルークが呟く。シンクは聞きたくないと言わんばかりに首を振った。

「あいつはね、自分の身、可愛さにあんたを見捨てたんだよ」
「っ、でも!イオンは優しくて!」
「優しい、ね。僕には、嫌われたくないからとしか、思えないけどね、あいつの態度は」

シンクの言葉の端に、哀れみが混じる。導師イオンであることを強制される、七番目。与えられた役柄から逸脱することを許されない、イオン。
そこから離れようとしないイオンを、シンクは嫌う。
同時に、『導師イオン』から自由になることを恐れるイオンを、哀れに思う。

「あいつと僕の間にあるのは、少しの差だ。だから、僕があいつで、あいつが僕だったかもしれない。だから、哀れに思うよ。そして、だからこそ、嫌いだ」
「……」
「僕はね、ルーク。居心地のいい世界が欲しいんだ」
「え…?」
「レプリカであることを知られても、蔑まれないような世界が欲しい。別に敬って欲しいわけじゃない。ただそこにいることを認めてくれれば、それでいい。今のこの隠れ家での生活が、当たり前のものとなるような、そんな世界が欲しいんだ」

そのためにね、あんたの力がいるんだ。
シンクは椅子から降り、ルークの側に近寄った。仮面が膝から落ち、カツンッ、と音を立てて、床に転がる。
ルークの顎を指で掬い、シンクはその顔を覗き込んだ。

「僕たちが好き勝手に生きるためには、ローレライの力がいる」
「ローレライ、の?」
「そう、ローレライが見る夢は預言になる。その預言を利用しない手はないだろう?僕たちは預言に詠まれぬ存在だけれど、それを知っているのはごく僅かな被験者たちだけだ。そいつらを排除して、僕のこの導師イオンの顔を利用してさ、新しい預言を詠むんだ」

どうせ、もうユリアが詠んだ預言から、道は外れている。他ならぬ、ユリアの子孫の手によって。
ならば、新しい預言を詠んでもいいはずだ。ローレライに、レプリカの存在を被験者たちが認めるような、そんな夢を吹き込み、預言として詠むのだ。ローレライ自身に、新たな預言を世界中の被験者たちに向かって語らせてもいい。
そのためには、譜歌なしでローレライを呼び出し、解放するために超振動の力がいる。ルークが、必要だ。

「僕と一緒に、僕たちらしい生き方をしようよ」
「俺たちらしい……。だけど、俺、はアクゼリュス、を」
「そのアクゼリュスだけどさ、崩落するのはアクゼリュスだけで済むと思う?」
「!?」
「他の大地だって、落ちてもおかしくないんだよ」

大地が崩落すれば、人も魔物も死ぬ。たとえ、命が奇跡的に助かったとしても、落ちた先にあるのは瘴気の海だ。
いずれにせよ、このままでは、世界は滅ぶ。

「でも方法はある。パッセージリングに超振動で命令を書き込めばいいんだ。ゆっくりと降下するように、って。そして、瘴気はローレライに消してもらえばいい。瘴気は第七音素なんだから、第七音素集合体にはそれくらいできるんじゃない?」
「なんで…シンクは、そんなこと知ってるんだ」

戸惑うルークの鼻先で、シンクは喉を鳴らして嗤った。
目を細め、唇を歪め、幼い顔に狡猾な笑みを乗せる。

「何しろ、二度目だからね」
「は?」
「こっちの話」

あはは、と声を上げ、子どもは笑う。
滅べばいい、と憎んだ世界に、今では関心を失くし、ただただ己が快適である世界だけを求めることにした少年が、愉快そうに、笑う。
揺れる翡翠の目を覗き込み、シンクはルークの頭を撫でた。朱色の長い髪は少しばかり艶を失っていたが、指をさらりと滑った。

「僕にはあんたが必要なんだよ、ルーク」
「俺が…超振動を、使えるから?」
「それだけじゃない。…あんたが一番、純粋だから」

第七音素だけで構成されるレプリカの中でも、ルークは特別だ。アッシュよりも完璧なローレライの完全同位体。身体が心が、乖離するとわかっていても、引き寄せられずにはいられないローレライの半身なのだ。
そう、心惹かれぬわけがない。

「ねぇ、側にいてよ、ルーク」
「……シンク」
「僕の側にいなよ」

ルークの頬を撫で、シンクはそっと額に口付けを落としてやった。
親愛の情の篭った、優しいキスに、ルークの翡翠が潤み出す。

「う、あ…ああっ」
「泣いていいよ、ルーク」

ルークの頭を胸に抱き寄せ、シンクは囁く。ルークが嗚咽を零し、シンクに縋るように抱きついた。
泣きじゃくる少年は、胸が詰まるほどに、幼い。
喉をしゃくりあげるほど、ぼろぼろと泣くルークを抱きしめ、シンクは朱色の髪に顔を埋めた。


END


シンクのみ実は逆行してました、なオチ。

 

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