月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
アシュルク。
ちょっと衝動的に。
ガイの自分へと向けられる思いで、ルークが心情的に苦しんでます。
それを支えて、癒しになるアッシュ。
注!同行者厳しめ(特にガイ&ナタリア)
ガイは、言う。
「レプリカだからって、卑屈になることないだろう」
ガイの口から似たような台詞を聞くたびに、ルークはため息を噛み殺し、苦笑う。どの口で、と吐き出しそうになるのを耐えて。
ガイに追従するティアにも、ついでに曖昧な微笑を投げる。
疲れた、とルークは心のうちで嘆息し、首を振った。
*
アッシュは、はぁ、とため息を吐いた。ノエルに送られて来たかと思うと、腹に飛びついてきたルークの腕は、一向に緩む様子がない。おかげで、立ち上がることも出来ないまま、アッシュはぺたりとアルビオールの床に腰を落としている状態だ。
がっちりと巻きついた腕の強さは、ルークの心情をそのまま表しているかのようだ。実際に、そうなのだろうが。
アッシュは天井をぼんやりと見上げた。今、アッシュが搭乗しているアルビオール三号機には、アッシュとルークの二人しかいない。
ノエルとお茶でもしてますから!とギンジは妹とともに、アルビオール二号機へと移ったからだ。気を利かせたつもりらしい。
「…で、いつまでそうしているつもりだ、お前は」
「……だって」
返ってきた言葉は、常になく幼い。まったく、と呆れながらも、アッシュは少しばかり乱暴な手つきで、朱色の頭を撫でた。ぐしゃぐしゃと髪をかき乱すようにすれば、うう、と唸り声。
アッシュの腹に顔を押しつけているせいで、ルークの声はくぐもっている。
腰に回されたルークの腕が、また、きゅ、と力を強めた。アッシュは眉を跳ね上げ、起こしていた上半身を、ゆっくりと背後へと倒した。
紅い髪が、掃除をしているとはいえ、土足で歩き回っているために、あまり綺麗とも言えない床に広がる。
構うものか、とアッシュは鼻を鳴らした。どうせ、この腹にしがみついた子どもは、今日は帰らない。帰す気もない。
ならば、ともにどこか近くの宿屋にでも泊まって、風呂に入り、髪を洗わせてやる。こちらが何も言わずとも、洗わせてだの、洗ってだの、言うに違いないが。
(いっそこのまま)
二人で行こうか、とも思う。だが、自分たちが二人でいれば、ヴァンの狙いは自分たちだけに向くことになる。六神将とヴァンを二人だけで相手にするのは、分が悪い。ギンジやノエルまで巻き込むことになりかねない。
それに、今はまだ自分たちの関係も、ナタリアたちには知られたくない。
──知れば、間違いなく引き裂こうとするだろう。特にガイやナタリア、そして、ヴァンの妹が騒々しく喚くのが容易に想像でき、アッシュは頭痛を覚える。
(きっと…いや、間違いなく、言うだろうな、ナタリアは)
何故、レプリカなんて、と。七年、ルークと幼馴染として過ごした時間も簡単に忘れて。
貴方は騙されているのです、たぶらかされているのですわ、正気に戻ってくださいませ。きっと、そんな言葉を吐く。
そのレプリカはアクゼリュスを落とした罪人なのに、とも言うだろう。貴方は優しいから、同情しているだけですわ、とルークを傷つけるに違いない。
一瞬、アッシュの翡翠の目に、剣呑な光が過ぎる。
本音を言えば、彼らからルークを引き離したい。だが、厄介なことに、ルーク自身がそれを望まない。
ナタリアは、ルークにだけ罪があったと今だに思いこんでいる。その考えを連中が改める可能性は低い。そして、その考えを吹き込まれた王たちも、彼らの言い分を信じてしまっている。
何より、アッシュが苛立つことに、ルーク自身も、だ。
だからこそ、ルークは自分と一緒に行きたいとは言わない。彼らとともにいることすら罰の一つだと考え、彼らに償いを示さなくてはならないと思いこんでいるのだ。
アッシュがそうではないと言おうとも、ルークは頑なだ。それほど、幼い心に刻まれた傷は深い。
(なら、あいつらには、ルークは罪を償ったのだと、認めさせてやるまでだ)
そうでなければ、ルークはあいつらから離れようとしない。
けれど、それでも、疲労を溜めこんだルークは、耐えきれず、時折、自分のもとへとやって来る。そんなルークのために、アッシュは漆黒の翼を通じて、ノエルに居場所を教えるようにしている。ジェイドすらも、ノエルの行動には注意を払っていないから、連絡を取りやすいのだ。
「…ガイがさ」
「うん?」
「言うんだよな。レプリカだからって、卑屈になるなって。…おかしいと思わねぇ?」
ハッ、とルークが嘲りを零す。その声音に混じる悲哀に、アッシュはルークの背中に手を乗せた。
あやすように、ゆっくりと撫でる。ルークが吐息し、力を抜いた。
「あいつさ、俺が本物じゃなくて…レプリカだってわかったから、迎えに来たってのにさ。俺がレプリカで、ファブレの人間じゃないからって、憎んでるファブレの子じゃないからって…。なのにさぁ、何なんだよ。誰より、俺がレプリカじゃないと困るくせに、レプリカだから卑屈になるなって、そんなん…おかしいだろ…っ」
「……ルーク」
「何だよ…。結局、俺は何ならいいんだよ。それとも、ガイはお前はレプリカだからこそ価値があるんだから、卑屈に思うことないんだとでも、言いたいのか?」
あいつにとって、レプリカって何なんだろう。俺は何なんだろう。
ルークが呻くように、呟く。
「あいつにとって都合のいい人形でさえいれば、あいつにとって都合のいいルークでさえあれば、ガイはそれでいいのかな」
「あいつはお前を自分のものだと思っているからな。だから、お前を見捨てたんだ。自分はお前の親のようなものだと言っておきながら、な」
顔を上げたルークの翡翠の目が、きょとん、とアッシュを見つめた。苦笑し、背中を撫でていた手を、アッシュは弾ませた。
さら、とルークが朱色の短くなった髪を揺らし、首を傾ぐ。
「お前が自分ではなく、ヴァンを取ったことに、あいつは腹を立てたんだろうよ。お前は俺のものなのに、ってな。お前に卑屈になるなと言うのも、自分のものである『ルーク』はそんなやつじゃないとでも思っているんだろう。…お前の気持ちに気づきもせずに。いや、考えようともせずに」
アッシュは口の端を吊り上げ、目を眇める。ぐ、と手に力を込め、ルークの背中を押し、身体をより密着させる。
ルークがぽて、と顎をアッシュの胸に落とし、それってさ、と紅い髪に指を絡めた。
「ナタリアと同じってこと?ナタリアもアッシュのこと、自分のものだって、思ってるよな」
「ああ…。そうだな、ナタリアも同じだ。俺がナタリアじゃなく、お前を愛しているのだと知れば、それは間違いだと否定するだろうな。俺が愛するのは、自分であるはずだ、それこそが正しいんだと思いこんで」
「アッシュの気持ち、否定しておいてさ、それでも好きだなんてよく言えるよ」
「あいつらは自分たちの意に沿わない他人を、当たり前のように蔑するからな」
最低だ、とルークが唸る。ノエルやギンジが自分たちの味方をしているのだと知れば、あの二人のことも、彼らは侮辱するだろう。
あなた達は間違っているのよ、目を覚まして、と同情するような顔をして、その実、裏に軽蔑を隠して。
「…早く、全部終わったらいいのに」
「……」
「終わらせて…罪、償って…ううん、俺の罪は償いきれるようなものじゃないけど、それでも、アッシュとずっと一緒にいられるくらいには、許されたいな。我が侭かも、しれないけど」
「ルーク…」
ぎり、と拳を固め、アッシュはルークをきつく抱きしめた。
それは、自分とて同じこと。けれど、言えば、ルークを苦しめることになる。
(お前だけが悪いわけじゃないのに)
罪は全員にある。自分も例外ではない。
ヴァンを止められなかったばかりか、ルークを守れなかった自分にも罪はある。
(外郭大地を降ろして、ヴァンを仕留めて)
ルークの功績を、キムラスカに認めさせねばならない。アクゼリュスの償いとして、マルクトにも認めさせねばならない。
国から認められれば、あの同行者たちも口は出せなくなる。それでも、己の分を理解しない連中ばかりだから、ルークを己らの都合がいいように苛み続けるだろうが、そんなことはさせるものか。
必要ならば、いっそ。
(いっそ、ナタリアたちを)
あの全員を──消してやる。
ルークの償いが、王たちに公に認められてもなお、ルークを縛り続けようとするならば容赦はしない。
今はまだ、ルークが罰の一つとして彼らを必要としているから、生かしておくが、終わったあとならば。
ルークに知られぬよう、ひっそりと殺してくれる。特務師団には、暗殺任務もあった。その術、その伝手。それらを使ってでも。
ルークとともに幸せになるためならば、ルークが幸せに生きる、そのためならば、泥を被ろうとも構わない。
「大丈夫だ」
「…うん」
淡く、ルークが笑う。消え入りそうな儚い笑みに、胸が締め付けられる。
ルークが満足に笑えるような日を、必ず、手に入れてみせる。
アッシュはルークの頬を両手で挟み、上向かせた。意図を察したルークが目元を朱に染め、瞼を下ろす。
(必ず、ルークを自由にしてみせる)
ともに生きるために。
顔を近づけ、アッシュはルークの少しだけ尖らされた唇にキスを落とした。
END