月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
アシュルク。六神将一部捏造要素あり。
アクゼリュス以降、同行者たちの怠慢や不敬っぷりが、アッシュの情報などもあって取り調べで発覚し、旅のメンバーが入れ替わってます。
現メンバーはルーク、アッシュ、シンク、アリエッタ、ジョゼット、アスラン。他にミュウとライガです。
なので、文中に同行者への厳しめ要素はないですが、前設定自体が厳しめ…。
死んだら、お星様になるんだよ。
任務で訪れた村で、両親を魔物に殺されたという少女が、言った。
月がなく、その分、煌く星が暗い空に映える夜。夜空を見上げ、少女は涙を流しながら、言っていた。
「死んだらね、お星様になるんだって、おじいちゃんが前に言ってたの」
「そうか」
謀らずも少女の仇を取ることになったアッシュは、少女の隣に立ち、同じように空を見上げた。
うん、と少女が涙を拭うこともせず、鼻を啜る。アッシュはポケットを漁った。その間も、少女は言葉を次いだ。
話していなければ、泣き喚いてしまうというように。崩れ落ちてしまうというように。
「だからね、寂しいことなんてないよ。お星様になって、見守ってるからって。お星様になって、お前のこと見ているから、まっすぐに一生懸命、生きなさい、って」
「いいおじいさんだな」
「うん。お母さんたちも、同じこと、言ってた。そうよ、死んでも、お空から見守ってるわって」
「そうか」
「うん」
ぐす、と少女が鼻を啜る音が、静かな夜に響く。
アッシュはス、と少女に取り出したハンカチを差し出した。縁にローレライ教団の紋章が刺繍された白いハンカチを、少女が、ありがとう、と呟き、受け取る。
少女はそれを頬に押し当て、まぶたを拭いた。
「だから、あたしね。一生懸命、生きるの」
「そうか」
「うん。お母さんとお父さんが、心配しないでいいように、一生懸命、生きるの」
「お前の両親は、きっと笑顔でお前を見守ってる」
「うん。…ありがとう、お兄ちゃん」
アッシュを見上げ、少女が笑った。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、一生懸命に、笑っている。
アッシュはしゃがみこみ、そんな少女を抱きしめた。少女の短い腕がアッシュの背に伸び、きゅ、と小さな手が握り締めてくる。
「でも、今は、泣いていい」
「…うん」
「明日から、笑顔で一生懸命、生きていくために、今は泣け」
「うん…ッ」
うわーん、と大声を上げ、少女は泣き出した。しがみ付いてくる手が、強くなる。
アッシュは少女が泣き止むまで、小さな背を撫で続けた。
*
知っているか、とアッシュはルークとともに焚き火に当たりながら、口を開いた。
パチパチと薪が爆ぜ、火の粉が舞う。新月の夜、燃え上がる火だけに照らされるルークは、オレンジ色に染まっている。
アッシュは自身もまた同じようにオレンジ色に染まりながら、首を傾ぐルークに微笑んだ。
「人は死ぬと、星になる、という話を知っているか」
「星って、あれ?」
つ、とルークの顔が上を向く。空に瞬く星々を、翡翠の目は映している。
そうだ、と頷けば、ルークの視線がアッシュへと戻された。
「初めて聞いたよ、そんな話」
「そうか。…昔、任務で行った村でな、両親を魔物に殺された少女が言っていたんだ」
「…そうなんだ」
二人の間で、焚き火が燃える。ともに旅をしているミュウやシンク、アリエッタとアリエッタの姉妹であるライガは眠りに落ち、夜に響く声は二人のものだけだ。
見張りならば、自分たちが、と粘っていたジョゼットやアスランもまた、夢の中にある。毎夜のように交代で見張りを引き受けてきた二人だが、さすがに疲れが溜まっていたらしい。
今夜は、昼の旅路に影響するから、と無理矢理、アッシュとルークの二人が見張りを引き受けていた。眠らせてよかったね、とルークが呟く。そうだな、とアッシュも頷く。
それでも、何かしら起これば、眠っている誰もがすぐに目を覚ますだろうから、二人の声は囁きに近い。
「星、かぁ」
ルークがまた空を見上げ、手を星へと伸ばす。アッシュは立ち上がり、ルークの隣に腰を下ろした。
えへへ、とルークが嬉しそうに笑い、こて、とアッシュの肩に頭を乗せる。朱色の髪を指で梳きながら、アッシュも空を見上げた。
焚き火に二人が照らされ、寄り添った影が二人の背後に伸びる。
「じゃあさ、死んでも、アッシュのこと見守ってられるんだな」
「縁起でもねぇ」
「なんだよ。アッシュがこの話したくせに」
唇を尖らせるルークに苦笑する。
ルークの頭に頬を押し付け、アッシュはふ、と息を吐いた。
「…昔、この話を聞いたときは、俺は嫌だと思った覚えがある」
「え?」
「死んで、星になるのは嫌だと思ったんだ。見守りたいものなんて、なかったからな。…死んだあとは、無になりたいと、そう思ってた。何を見ることなく、聞くことなく、感じることなく…消えてなくなりたいとそう思った」
「…アッシュ」
ルークが頭を起こし、腕をアッシュの首へと絡めた。そのまま、アッシュの頭を引き寄せ、胸に抱く。
ルークの背に手を伸ばし、アッシュは温かな体温を感じるように、目を閉じた。
「だからかもな、その少女が羨ましくもあった。見守りたいと思ってもらえる彼女が。彼女を見守りたいと思える、彼女の両親が。…俺には何もなかったから」
でも、今は、とアッシュの唇に笑みが浮かぶ。今は、違う。
死んだあとは、星になりたいと、そう思う。星になり、見守っていたいと思う。
今、世界のために旅をともにする仲間たちを。そして何より、愛してやまない半身であるルークを。
「お前に会えて、本当によかった」
「そんなの、俺だって」
「ああ。…お前を愛してる」
うん、と頷くルークの目から、ぽたぽたとアッシュへと涙が降り注ぐ。泣き虫め、とアッシュが柔らかく笑えば、うるせぇよ、とルークが拗ねる。
それでも、アッシュを抱く腕は緩むことなく、強く、優しい。
(…愛して、いる)
優しいぬくもりと穏やかな笑顔、そして、温かい涙をくれるルークを、誰よりも愛している。
最期まで生きることを諦めるつもりはない。けれど、もし死んでしまったら、そのあとは、星となり、見守っていたい。
(お前が幸せになってくれる姿を、俺は)
望みながら、祈りながら、見守るだろう。
そんなことを思いながら、アッシュはルークを抱きしめた。
爆ぜた薪から火の粉が昇り、一つに重なった影に落ちた。
*
薪を片付け、準備を整えると、アッシュたちは次の目的地を目指し、歩き出した。
ここはずいぶんと仕掛けが多いな、とアッシュが顔をしかめながら、地図を見ていれば、シンクがス、と隣に近寄ってきた。どうした、と顔を向ければ、ムス、とシンクの眉間に皺が寄っている。
アッシュは訝しげに首を傾ぐ。
「何だ、シンク」
「…全部、終わってからにしてよね」
「は?」
「シワシワになって、ヨボヨボになるくらい、歳とってからにしてよ。…星になるのはさ」
「シンク、お前…」
ぶっきらぼうではあったけれど、シンクの言葉は紛れもなく、アッシュの生を望むもの。目を見開き、思わず、見つめるシンクの頬は、いつになく赤い。
嬉しいことを、と一瞬、アッシュは微笑みそうになったが、すぐにシンクがそれを口にするには、昨夜の会話を聞いていなければならないことに気がついた。
アッシュの顔が、ピキリと引き攣る。
「…昨夜の俺とルークの…お前…起きて…ッ」
「言っておくけど、あんなとこでいちゃついてる方が悪いんだからね」
「……ッ!」
声にならない声を上げ、アッシュの顔が生え際まで見事に真っ赤に燃え上がる。
アッシュたちの背後では、ルークが突然、赤くなったアッシュに、不思議そうに首を傾げていた。
「どうしたんだろ、アッシュ」
「…ルーク」
「ん、何、アリエッタ」
ルークの手に、アリエッタの手が伸び、きゅ、と掴んだ。小さな手を握り返し、ルークが優しげな微笑を向ける。
アリエッタがルークを見上げ、あのね、と緋色の目を瞬かせた。
「アリエッタ、イヤ、です」
「え?」
「ルークがお星様になるの、ヤです」
「え、それ…あ、まさか昨日、起きて…?」
カァ、とルークの顔もアッシュに負けず劣らず、赤く染まる。アリエッタがこくん、と頷き、ルークの手を握る手に力をこめた。
「まだまだ、ヤダ。もっともっとルークと一緒にいたい、です。ルークに、幸せになって、欲しいです」
「アリエッタ…」
「だから、ずっとずーっと、先じゃないと、ヤです」
見上げてくる緋色の瞳は、強い。強く強く、ルークに生きて欲しい、と訴えてくる。
死んでからの話など、まだ早いのだと、訴えてくる。
ライガもそれに頷くように、くぅ、と唸る。
そうですよ、とルークとアッシュに向かって、アスランとジョゼットが笑みかけた。
「お二人にはまだまだ未来があるんですからね」
「星になるのなど、まだまだ先の話でなくては、困ります」
「…二人も聞いてたんだ」
聞こえてしまったんです、と二人が声を揃える。
ルークは顔を赤らめたまま苦笑し、アッシュが赤い額に手を当て、天を仰いだ。
「…やれやれ。まだまだ死ねないな、ルーク」
「うん、アッシュ。あ、もちろん、みんなもね」
当たり前だ、と全員が頷き、アッシュとルークは目を合わせ、二人揃って、笑い合った。
柔らかな希望に満ちた四人の笑みが、そんな二人を見守っていた。
END