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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2008.09.30
短編

ディススレルク。
捏造要素というか、捏造発明というか。
死にネタになりますので、苦手な方はご注意を。
同行者とその周囲の人間に厳しめです。

注!同行者厳しめ




襲撃犯との間に起こった擬似超振動によって、屋敷の外に連れ出されたのを幸いとばかりに、ルークはタタル渓谷で周囲の魔物たちの気配にも気づかずに、眠ったままの襲撃犯を置き去りにし、自由気侭に世界を飛び回っていた。
音素を纏わせ、強化した木刀で魔物の相手をして小金を稼ぎつつ、辿り着いたケセドニアで、服を売り、衣服を整え、鬘を被り、武器を揃え。自分の行方を探しているらしい、白光騎士やキムラスカ兵の目を避けながらの逃避行は、なかなかに充実していた。
世界には初めて見るものが多く、また、初めて食べるものも多く、屋敷の中と本に書かれた世界がすべてだったルークにとって、何もかもが新鮮だった。
そして、誰にも正体を知られることなく、ふらりと訪れたダアトで、ルークは以前から会ってみたいと思っていた一人の研究者を訊ねることにした。
──ヴァンに協力し、レプリカである己を作り出した、サフィール・ワイヨン・ネイスを。

(まあ、レプリカ技術を編み出したのは、ジェイド・バルフォアって奴みたいだけど)
その技術を発展させ、譜業を組み立て、ルーク・フォン・ファブレの完全同位体を生み出したのは、サフィール・ワイヨン・ネイスだ。今はディストと名乗っているらしいが。
教会に入り込み、神託の盾騎士の隙を突き、ルークは人目を避けながら、教団内部を奥へ奥へと進んでいった。
あちこち探り、どうにか辿り着いたディストの研究室。そこでルークは、色素の薄い銀色の髪をした男に出会った。

「誰ですか、貴方は」

訝しげに細められた、眼鏡の奥の目が赤い。綺麗な色だな、と思いながら、にぃ、とルークは唇の端を吊り上げ、ディストへと一歩踏み出し、扉を閉めた。
きつく寄せられた眉に、優雅な礼を返す。

「お初にお目に掛かります、ネイス博士。ああ、今は、ディスト博士、でしたか」
「…その名を知っているとは…。何者です?」

顔を上げ、にっこりと微笑む。
それはそれは眩いばかりの笑みだった。

「貴方が作り出した『レプリカ』です」
「?!」

ぎょ、と目を瞠るディストに、ルークは耐え切れなくなったように腹を抱えて笑い出した。鬘を取り、床へと投げ捨てる。
頭を振れば、鬘に押し込んでいた朱色の髪がさらりと舞い、黒い服で包まれたルークの背を覆った。

「…さて」

『最高傑作』に出会ったご感想は?
目を弓なりに、唇を三日月に裂いたルークの言葉に、ディストがごくりと唾を飲む音が聞こえた。

「何故、ここに…いや、そんなことはどうでもいい。重要なのは…」
「俺が唯一の完全同位体レプリカであること、ってとこか?」
「ええ、そのとおりです」
「はは」

またずいぶんときっぱりと言ってくれたものだ。
建前と本音などという使い分けをしないディストにルークは好感を抱く。言葉の裏を読み取る必要がないことが、素直に嬉しい。
ヴァンもガイも、自分の周りにいるものたちは、皆、揃いも揃って、形ばかりを整えた戯言の裏に、醜い本音を隠していたから。あるいは、表立ってはにこやかにしておきながら、陰口を叩いてばかりの奴らもいる。
人間不信にもなるというものだ。だが、ディストはいい意味でも、悪い意味でも率直らしい。ルークは心からの笑みを向けるほどに、ディストを気に入った。
ディストも好奇心と興奮に目を輝かせている。

「俺に会えて嬉しそうだな、あんた」
「もちろんですとも。私はずっと貴方に会いたかった。貴方は貴方が言うとおり、私にとって最高傑作ですからね」
「それは、どうも」

たとえ、それが研究目的であり、自己の利益のためであろうと、会いたかったと言われたことをルークは内心、喜んだ。他の誰とも重ねられず、他の誰とも比較されない。そのことに安堵する。

(…でも、時間切れ、だな)
姿を見られないよう、ここまで進んできたつもりだが、どこかで見つかってしまっていたらしい。自分もまだまだだな、と吐息する。
部屋の外に、人の気配。踏み込むタイミングを計っているのだろう。逃げ出せるかどうか、部屋を見回す。残念なことに、この部屋にある出入り口は扉のみ。窓はない。
そして、扉の向こうにある気配には、探りきれないものもある。おそらく、自分よりも実力が上の者が混じっている。

(まあ、いいか)
偶然、得られたチャンスだったが、十分、満喫した。会いたいと思っていたディストにも会えたことだし、ここらあたりが潮時だろう。
退屈極まりない屋敷での生活に戻るのは不満ではあるが、それももうじき終わるはず。今年は預言の年なのだから。

「なぁ、ディスト」

目の色や髪の色を調べていたディストの耳に、ルークは唇を寄せた。扉の向こうの気配が忙しくなる。自分がディストを害するのではないかと、気が気ではないといったところか。
そんなこと、するわけないのに。
首を傾いだディストに、ルークはそっと囁いた。

「また、会ってくれるか?」

当たり前だ、それどころか逃がすつもりだってないと言わんばかりに、手首を掴んできたディストに苦笑する。まだ扉の向こうの気配に気づいていないらしい。
残念だけど、とルークはため息を零した。

「タイムリミットだ」

バンッ、と勢いよく扉が開き、神託の盾騎士団と彼らを率いる金髪の女が雪崩れ込んでくる。女の目が一瞬、驚愕に見開き、その唇がレプリカと動いたのを、ルークは見逃さなかった。他の神託の盾騎士たちは、アッシュ師団長?と訝しげにしているというのに。
ヴァンの直接の部下らしいな、と戸惑いながらも、ルークを捕らえる指示を出した女に、ルークは降参の意を示すように、右の手首をディストに掴まれたまま、両腕を上げた。





「…正直、もう会えないと思ってましたよ、私。アクゼリュスが崩落した際、貴方は消滅したと聞いてましたしね」
「また会おう、って言っただろ、俺」
「まあ、そうですけど」

どこか呆れたようにため息を吐くディストに、くすくすとルークは笑う。
ルークは、自身をアクゼリュスの崩落に巻き込まれ、消滅したように装い、ともにあったガイたちの前から姿を消した。そして、すべてがルークの思惑通りに進んだ。
アッシュからルークがレプリカであることを知らされた彼らは、ルークが人ではなかったから、アクゼリュスを崩落させたと罪をすべてルーク一人だけに押し付け、罪を償うこともせず、無責任にも死んだのだと、各国の王たちに報告したのだ。ヴァンですら、ルークが乖離したものと、疑っていない。
ここまで計画通りに進んで、むしろ、拍子抜けしそうなほどだ。単純な連中ばかりで、何よりとルークは哂う。

かくして、ルークは真の自由を手に入れ、今ではディストに頼み、短くした髪の色や目の色を音素を弄って変えた。
鮮烈な朱色がなくなってしまえば、一目で正体を見抜かれることもない。実際、今のところ、誰にもルークだと気づかれたことはない。

「でも、どうして私には…」
「俺が生きてるって教えたのかって?だって、ディストにとっては、俺がルーク・フォン・ファブレであろうとなかろうと、俺の価値は変わらないだろ?ディストだけだからな。俺をアッシュの代わりにせず、俺個人に価値を見出すのは」

にこ、と微笑み、同意を求めるようにルークは首を傾いだ。ディストが眼鏡を押し上げ、躊躇うことなく、頷く。
ルークの笑みが、ますます深まる。ディストは自分を偽らない。たとえ、どれほど残酷だと罵られることになったとしても、偽ることはないだろう。
レプリカだからこそ必要なのだと頷くことを躊躇わないディストが、ルークは好きだった。
レプリカということを当然のように認めてくれているから。レプリカであるというだけで、異端とし、存在そのものすら罪だと決め付けたりしないから。

盗み聞きした、アッシュと彼らの会話を思い出す。ともに在った彼らは、誰もが人間じゃなかったのかと、自分を嘲り、責め立て、存在していること自体を罪と蔑んだ。傲慢だと非難した。
仲間だなどと、笑わせる。何が親友だ、何が婚約者だ。
誰も、七年間、被験者との違いに気づきもしなかったくせに。

「それにしても、ルーク。アクゼリュスで死んだことにするつもりだったなら、ヴァンの妹に連れ出されたときに偽装してもよかったのではないんですか?」
「んー、考えなかったわけじゃないけど、それだとたとえ死体だろうと、キムラスカが俺を見つけようと躍起になるかな、と。生きてよーが死んでよーが、『鉱山の街』で消滅すりゃいいんだし。ヴァンも俺をアクゼリュスで利用し終えるまではしつこそうだったしさ。だったら、誰も彼もが俺を利用しようとしてたアクゼリュスで『役目』を終えて死んだことにした方が、後腐れないだろ?」
「…なるほど。アクゼリュスさえ崩落してしまえば、それ以降、『聖なる焔の光』は必要ない、ということですか」

そう、と頷き、肩を竦める。それぞれの思惑通りに消えてやりさえすれば、文句もないだろう。残りの人生は自由に過ごさせてもらうつもりだ。
だからこそ、あのときは音素を弄らず、鬘で誤魔化したのだ。いずれはキムラスカに戻るつもりだったから。そして、ルーク・フォン・ファブレとして、消滅するために。
やっと得た自由を手放すものか。──最期まで。

ふと、机の端に置かれた手のひらに乗るほどの小さな箱に、ルークは目を留めた。ひょい、と摘みあげ、しげしげと眺める。
何か特殊な金属で出来ているらしいそれの表面には、びっしりと譜が刻まれている。第一、第二と数えてみれば、第一から第六までの譜が、複雑に絡み合い、文様を描いているのがわかった。
頭に浮かぶのは、ミュウのソーサラーリング。あれと似たようなものだろうか。

(…何が入ってんだ?)
薄っすらと線が入っているところを見るに、開くのだろう。だが、引っ張っても蓋が開く様子はない。
む、と眉を顰め、ルークは溝に沿って爪を這わせた。もしかしたら、張り合わせてあるのだろうか。

「あ、ダメですよ、ルーク。それを開けないで下さい」
「ああ、やっぱりこれ開くのか。どうやって?」
「開けるな、って言いましたよね。教えませんよ」
「何だよ、ケチ」

ちぇ、と唇を尖らせ、差し出されたディストの手のひらに箱をちょこん、と載せる。ディストが苦笑し、ルークの頭をくしゃりと撫でた。
ディストも出会ったばかりのころと比べると、ずいぶんと砕けたよなぁ、と気持ちよさそうに目を細め、思う。今では、自分の訪問を心待ちにしてくれているように思える。
きっと気のせいじゃないよな、といつのころからか用意されるようになった、ルーク専用のティーカップをちら、と見やり、ルークは頬を緩めた。

「これにはね、圧縮した第七音素が入ってるんです。開けたら、乖離してしまいますよ」
「第七音素がその中に入ってるって…そんなこと出来るのか」
「研究に研究を重ねましたからね。もっとも、今のところは治癒術師が一人分の怪我を治すことが出来るくらいの量しか詰め込めませんが」
「ふぅん…」

あの小さな箱の中に、第七音素、つまり、自分の素とも言えるものが入っているのか。ルークはディストの手の中のそれを興味深げに眺め、長い自分の髪に指を絡めた。
クン、と一本、引っ張る。抜け落ちた髪はふわりと手に掛かり、数秒の間を置いて乖離した。

「…なぁ、ディスト」
「何ですか?」
「それってさぁ」

驚いたように目を瞠ったディストから得られた答えに、ルークは満足げに頷いた。





シャラリ。胸元でネックレスが揺れ動く。一人、人のいない街の外に出たディストは、鎖に指を這わせた。
鎖の先にぶら下がる、細かく譜を刻んだ細長い棒状のネックレスには、一つ、小さな宝石が埋め込まれている。朱色のルビーが。

「…人生、満喫できましたか、ルーク」

ルビーは、朱色の髪をしていた少年をディストに思い起こさせた。まったく、重い贈り物を遺していってくれたものだ。
肩が凝ってしまいますよ、と思ってもいない文句を一つと苦笑を零し、ネックレスを服の中にしまう。肌に触れたそれは冷たかったが、すぐに体温が移り、温まるはずだ。
服の上から、そっと指先で撫でる。

「綺麗な空ですよ、ルーク。紫色に染まっていて」

くっ、と口角を吊り上げ、ディストは笑う。ケテルブルクのただでさえ厚い雲に覆われた空は、瘴気に覆われ、さらに暗く澱み、漂う空気も紫色の霧が掛かっているかのよう。
どこからか、世界は滅びてしまうのかと嘆く声が聞こえてくるようだ。別に構わないじゃないかと、首を振る。
存続する価値など、この世界にあるのか。幼い子どもと言えるレプリカを平気で犠牲にしようとする世界になど、何の価値がある。

ローレライが自身の解放を望み、アッシュへと、そして、ルークへも鍵を送ることで、知られてしまったルークの生存。
最初は宝珠を手に入れるため、瘴気が発生してからは、アクゼリュス崩落を贖えと言わんばかりに、ルークに瘴気中和をさせるため、各国は躍起になってルークを探した。
ローレライの剣は宝珠と引き合い、コンタミネーション現象で宝珠を取り込んでしまっていたルークは、アッシュの手により、見つかってしまった。
捉えられ、瘴気の中和をモースが勝手に生み出したレプリカ一万人とともに行えと強制されたルークが取った道は、自由を貫くことだった。

ルークは、自ら命を絶った。
両手両足の自由を奪われながらも、超振動によって、己の音素を乖離させ、文字通り、消滅したのだ。
最期まで、自由でいるために。

「……」

ザク、と硬く凍った雪を踏み、ディストは白い息を吐く。コートを羽織っているものの、寒さが身に染みていく。
瘴気の中和は、ルークの死の後、一月が経過してが、いまだ行われていない。被験者のためならば、時間が掛かろうと足掻くつもりらしい。おそらく、ナタリアを始めとしたキムラスカ側がアッシュを犠牲にすることを渋っているのだろう。
馬鹿馬鹿しい、とディストは首を振る。『聖なる焔の光』をアクゼリュスで消滅させるつもりだったのは、キムラスカだろうに。今更、その命を惜しむとは、何たる矛盾。

(まあ、確かに)
地殻を侵す瘴気を除くために、アッシュにはローレライを解放する役目があるのは事実だ。ならば、別の方法をさっさと取ればいいじゃないか、とディストは吐息する。
第七音譜術士二人の間に擬似超振動を起こせばいいのだ。第七音譜術士は貴重だが、罪人を使えばいい。死刑になってもおかしくない罪人は、幸い、彼らのすぐ側にいる。
しかも、聖女ユリアの子孫と一国の王女が侵すにはあまりに重く、都合の悪い彼らの罪を隠すためにも、美談として仕立て上げる絶好のチャンスでもあるのだから、さっさと実行すればいいのだ。民のため、世界のためというのなら。

皮肉に頬を吊り上げ、ディストは雪を掬った。雪の冷たさが手袋を通して伝わってくる。
それをギュ、と押し固め、形を整えると、ポケットから用意してきた緑の葉を二枚、耳として突き刺す。ついでに赤いビーズも二つ、押し込む。
雪ウサギがディストの手のひらに、出来上がった。

「ほら、ルーク。いつだったか、見たいと言っていたでしょう」

残念ながら、手に入らなかったために、目は南天の実ではないが。
くす、と小さく笑い、ディストは温まったネックレスを取り出し、雪ウサギをそれに見せるように、鎖をしゃらりと揺らした。
ディストが出来る限り小型化した、第七音素を閉じ込めることが出来る箱の中には、ルークの髪が入れられている。乖離してしまうため、開けて確かめるわけにはいかないから、本当に入っているかどうかはわからないが、自分が死んだときはディストに送ってくれ、と生前、ルークはネックレスに仕立て上げたそれをノワールに託していたのだ。

「…世界が終わるそのときまで、私も自由に生きますよ」

貴方が遺した、この重みと一緒に。
雪ウサギをそっと雪の上に置き、ディストはネックレスを再び、服へと仕舞うと、ゆっくりと街へと戻っていった。
瘴気が漂う中、雪ウサギの目は赤く、身体は白く煌いていた。


END


メモリアルアクセサリーというものをふと思い出したので、それをテーマに。


 

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