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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.20
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2008.09.21
ss

ピオルク。ED後から数十年後。
帰還したのは、アッシュのみとなってます。
ピオニーの最期の話です。
年老いたピオニーの独白と思い出。
厳しめ要素はなし。
(アシュナタ、ガイティア描写が少しですがあります)

タイトル拝借:「悪魔とワルツを」さま





ピオニーはゆっくりとした足取りで、宮廷の中庭に出た。降り注ぐ日の光を仰ぎ見、手を額に翳す。
水の壁を通して降り注ぐ太陽の光は、煌き、視力が落ちたとはいえ、蒼の目には眩かった。
息を吐き、木の根元に座り込む。背を預け、木漏れ日を手のひらで受ければ、ピオニーの皺が出来、乾いた手は淡い翠に染まった。
失ってしまった、朱色の少年の目の色を思い出させる翠に。

「…ルーク」

ぽつりと呟いた声は掠れていた。
自分も年を取ったものだと、吐息する。
もう八十を越えた身体には、幾ら見た目が若く見られようとも、若いころのような体力は望めない。
──自分がもう長くはないことを、ピオニーは知っていた。

「もう十分、生きたけどな…」

気づけば、あの怒涛の時代をともに生き抜いた者たちも、多くが死んでしまった。
幼馴染たちも、もういない。ジェイドも、サフィールも一足先に逝ってしまった。ネフリーも、三年前に眠るように逝った。
跡継ぎを残すためにもと娶った妻も、昨年、逝った。周囲に押され、結婚した彼女は、実によく女王の座を長く勤めてくれた。立派な跡継ぎも、二人、残してくれた。
今では、兄の方が王となり、弟が宰相として、マルクトをよりよくしようと頑張ってくれている。あの二人ならば、これからのことも安心出来るというものだ。
本当に、もったいないくらいの妻だった。この心に、忘れられない相手がいるのだと言っても、笑ってそれを受け止めてくれたのだから。

「…愛しては、いたよ」

左手の薬指に嵌めた銀色の指輪を見やり、穏やかに笑む。激しい恋情はなかったけれど、穏やかな愛情は築いたと思う。
家族として、彼女を愛していた。それは、胸を張って言える。
けれど、恋はしていなかった。つくづく自分は、面倒な性分をしている。
ピオニーは低く喉を鳴らし、苦笑する。一途と言えば聞こえはいいが、結局のところ、自分は諦めが悪いだけだ。
ネフリーのことも、そして、ルークのことも。

「ま…ルークに関しては、俺だけでもなかったか」

誰がどれほど薦めても、独り身を通したジェイドを思い起こす。私は残りの一生をレプリカたちのために捧げるつもりですから、といつでもそう断っていた、親友。
ずるい奴だと、思ったものだ。実際、ジェイドが残した功績を考えれば、レプリカたちのためというのは、偽りではなかったが、ジェイドが独り身でいた本当の理由は、ルークが帰って来るのを待っていたかったからだろうから。
待っていることなど許されない自分と違い、待っていることが出来るジェイドを、ピオニーは羨んだ。それが幸せかどうかは、わからなかったし、ジェイドにしかわからないことだったが。

「あいつらも、そうだったな」

頭に浮かぶのは、ガイラルディア。ガイは、フェンデの姓を名乗ることにしたティアを妻とした。
お互いに、ルークの思い出を胸に抱き、ルークだけを想いながら。
ルークの思い出を分かち合うために、二人は夫婦という形を取ったように思う。
もし、自分たちがルークが帰ってくる前に死んでしまったとしても、自分たちの子がルークを待ち、いつか会えることを祈りながら、二人ももう逝ってしまった。
現ガルディオス伯爵は、両親の影響だろう。会ったことのないルークに、恋をしているように思えたことを、思い出す。彼が妻とした娘は、どこかガイやティアが話して聞かせたルークに似ている娘だった。

「…みんながそうだ」

一人、帰って来たアッシュも。アッシュの妻となったナタリアも。
二人は生まれた王子に、ルークと名づけ、愛を注いだ。ルークが受けられなかった分の愛も与えるかのように。教育も、剣の腕も、愛情も注がれて育った王子は、今では引退し、隠居の身となったアッシュやナタリアに代わり、立派な王として、キムラスカを治め、ピオニーの息子たちと交流を深めている。
ルーク王と会うたびに、ピオニーの胸にこみ上げてきたのは、懐かしさと切なさだった。
アッシュの子である彼は、当然のように、ルークと面差しがよく似ているから。

例外と言えば、アニスだろうか。第七音素の素養を持たない彼女は、預言を詠む意味がなくなったとはいえ、導師にはなれなかった。
その代わり、新たな導師となったフローリアンに導師守護役として仕え、彼を支えた。守りきれず、死なせてしまったイオンへと贖うかのように。
彼女もまた、相手がルークではないだけで、たった一人の人間に心囚われたまま、家族を得、たくさんの孫たちに囲まれ、余生を送っている。
森へと帰ってから、会っていないが、きっとルークを主人と仰いだミュウもまた、まだ生きているのなら、ルークを思っているだろう。

ふ、とピオニーは唇に微笑を刻んだ。
ルーク。イオン。
被験者には、心囚われることはなかったのに、レプリカであった彼らには、多くの人間が囚われたままだ。なぁ、と空を仰ぎ、呟く。
お前たちは、一人の人間だったよ、と。
唯一無二の人間だった。
代わりなんて、いなかった。
お前たちだから、ルークだから、イオンだから、俺たちは。

「…ルーク」

会いたいなぁ、と掠れた息の下、一人ごちる。
会いたいよ、ルーク。
お前の翠の目が笑うさまが見たい。
お前の朱色の髪が柔らかく風に靡くさまが見たい。
お前の笑い声が、聞きたい。

「死んだら、会えるのかね」

この身が乖離し、音素となって空へと、音譜帯へと昇っていけたら、会えるだろうか。
会えたら、名前で呼んで欲しいものだと、ピオニーは笑う。
もう自分は陛下ではない。王の座は譲った。
ただのピオニーとして、呼んでくれないだろうか。
ただのピオニーとして、抱き締めさせてくれないだろうか。

二度、ルークを抱き締めたことが、ピオニーにはある。
一度目は、瘴気を中和するため、レムの塔へと向かうルークに請われて。
最後になるかもしれないから、陛下の体温を覚えておきたいんです、と今にも泣きそうな顔をしておきながら、笑うルークを抱き締めた。
二度目は、エルドラントに向かう四日前、ルークがグランコクマに訪れたときだ。
今度は、ルークが言い出す前に、自分から願った。繋ぎ止めておきたい衝動を理性で抑えこんで、強く抱き締めた。抱き締めて、抱いた。
ルークの熱を我が身に刻むように。ルークのすべてを覚えておくために。

そして、三度目はなかった。
ルークは帰ってこなかった。

「ルーク」

今でも、お前に恋をしているのだと言ったら、呆れるだろうか。
陛下もしつこいですね、と肩を竦めて。
それとも、俺もです、と受け入れてくれるだろうか。

好きだよ、ルーク。
ピオニーは震える息を吐き出し、目を閉じる。
力が指先から抜けていく。心臓がゆっくりと鼓動を弱めていく。

キラキラと。
ピオニーへと光が降り注いだ。
陽の煌きのような光が。
焔の欠片のような光が。
キラキラ、キラキラと、ピオニーを包む。

ピオニー。
名を呼ばれた気がして、億劫で仕方なかったが、ピオニーは緩々と瞼を押し上げた。
キラキラ。眩い、光。
朱色が、見えた気がした。

長年の宿敵であったキムラスカと和平を結ぶ功績を挙げ、世界の存続に全力を注いだ、賢王ピオニー・ウパラ・マルクト9世が、八十六年に渡る生涯の最期に見たのは、恋しい光の笑みだった。


END


 

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