月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
シンク+スレルク。カプ未満というか、悪友な二人。
ED後、実はこっそり戻ってきていたルークとシンクが気侭な二人旅をしてます。
その途中、キムラスカに寄って、という話。
アッシュは大爆発が不完全だったため、あのまま…ということになってます。
特にティアに厳しめですが、ナタリアとアッシュにも厳しめです。
注!同行者&キムラスカ厳しめ(アッシュ含)
タイトル拝借:「悪魔とワルツを」さま
「僕ならいらないよ、あんなの」
シンクが嫌悪も露わに言った。
きょとん、とルークの目が丸くなる。
髪の色を黒に変え、髪型を変え、旅人の様相をしたシンクは、どこから見てもかつての六神将『烈風のシンク』には見えなかった。小柄ながらも鍛えられた肉体が、マントの下に隠れていることもあり、口の悪い少年としか、人々の目には映らない。
「あんなのって、慰霊碑のことか?」
「そう、あれ」
シンクと同じく、髪の色を銀に変え、ばっさりと短く刈ったルークもまた、旅人の様相をしていて、通りすがる誰もがルーク・フォン・ファブレだとは気づかない。
もっともルークもシンクも、誰にも気づかせるつもりなどなかったけれど。
「アッシュとルーク、だって。気持ち悪くないの、あんた」
小声で交わされる会話に、耳を傾ける者はいないとはいえ、誰かに聞かれたら剣呑だなぁ、とルークは苦笑う。何しろ、アッシュとルークは世界を救った英雄とされている。世界のために命を落とした、悲劇の英雄だと。
キムラスカの民は、二人を崇めてすらいる。彼らがナタリア王女とともに、この国を導いてくれたなら、と願う声はあちらこちらで聞かされてきた。
馬鹿じゃないの、とそのたびにシンクは顔を歪めていたけれど。ルークもいい顔はしなかった。都合のいい理想主義者で目の前の現実を見据えることも出来ないナタリアと、国を導いてなどいきたくはない。
まして、この根底から腐った国を、だなんて。
「『鮮血のアッシュ』の罪まで捻じ曲げてさ。アッシュがキムラスカに帰らなかったのを、ヴァンの目的を探るためって、何、あのでっち上げ。カイツール軍港の襲撃もそうだったとでも?あれ、アリエッタが罪を逃れるために、アッシュに命令されたってことにしたとかされてるでしょ。腹が立つんだけど」
「まあ、なぁ。…犠牲者が報われないのは、確かだな」
「あんたのことだってそうだよ。キムラスカの繁栄のために、アクゼリュスで殺そうとしておいてさ。今じゃ英雄として奉ることで、キムラスカ王家への民の支持率を取り戻そうなんて、むしが良すぎるじゃないか」
忌々しげに舌打ちするシンクに、乾いた笑いがルークの口から零れる。
まさに、そのとおりだとルーク自身も思っているので、否定はしない。
利用できるものならば、その死すらも利用する。尊厳など、関係ないのだ。キムラスカとは、そういう国だ。そう割り切ってしまうのが一番だと、ルークは緩く首を振った。
「だからこそ、言ってるんじゃないか」
あんなのいらないって。
呟くシンクに、王城を見上げる。
王城前の広間に置かれた慰霊碑を、二人は見てきたところだった。キムラスカが死んだアッシュとルークを、どう扱っているのかを見に行ってみよう、とシンクが言い出したのがきっかけで。
やっぱり、最低だね、この国。
慰霊碑を見るなり、小声で低く暴言を吐いたシンクの声が、警護の兵士に聞かれなくてよかったよ、と今さながらに胸を撫で下ろす。
あんな場所でそんな台詞を吐いたことを聞かれれば、捉えられていてもおかしくない。
(まあ、シンクだって、そのへんはわかってるだろうけど)
騒ぎを起こすつもりがあったわけではないだろう。ただ抑え切れなくなった。そういうことだ。
ルークを死んでからもなお、己らの利益に繋げ、利用するキムラスカのありようが。
「シンクは優しいよなぁ」
「何言い出してんのさ。なんか変なものでも食べたんじゃないの?」
「うわ、ひっで。褒めてんのに」
「フン」
素直じゃないな、と苦笑しつつ、長居は無用、というより、これ以上こんな不愉快なところにいられるか、と言わんばかりにスタスタを港へと向かうシンクの後に続きながら、ルークは小さく笑う。
「あれさ」
次はどこへ向かおうか。そんなことを考えつつ、口を開く。
ケセドニアで露天商巡りも楽しそうだ。あるいは、ケテルブルクあたりでのんびりするのも捨てがたい。
どこに行こうにも、自分たちで決められることが、こんなに楽しいことだとは思わなかった。
通行手形もマルクト、キムラスカ、ダアトの印が入ったものをローレライがレプリカとして作り出してくれたおかげで、どこに行くのも困らない。
地上に戻ってこようか散々迷ったけれど、シンクとの二人旅はルークにとって、気楽で心から楽しめるものだった。
「ティアとナタリアが言い出したんだよな。アッシュは死んでるし、俺も帰って来てって言葉に、首振って、さよなら、って返したし、もう三年も経ったから、周りにも説得されて、俺たちの帰りを待つなって言われてさ。ならば、せめて、花を手向ける、思いを捧げるものをください、ってインゴベルト陛下に頼んだんだよ。ローレライが見せてくれた」
「へぇ。さすが空気が読めない馬鹿女二人だね」
「うん、すごいよな。アッシュはともかく、俺がティアのところに帰るだなんてよく思えるよ。ティアだけじゃなくて、ジェイドたちもそう思ってたみたいだけど。冗談じゃねぇっての」
誰があんな勘違い甚だしい女のもとになど、帰りたいと思うものか。
ルークは忘れていない。シェリダンをヴァンが襲撃したとき、ティアが放った一言を。悲しんでいる暇などないだなんて、よくもノエルの前で言えたものだ。
あんな人の心を理解しない、己の悲劇に酔っているヒロイン気取りの女などに、誰が恋情など抱こうか。ティアは勝手にこちらへと好意を抱いていたようであり、周りも自分がそれに応えるのを当然だと思っていた節があるが、何故、自分も同じ想いを返さなくてはいけないのか、理解に苦しむ。
まったく、馬鹿馬鹿しい。
「あとローレライが言ってたんだけど」
「何?」
「棺に納める肉体が残らなかったのなら、せめて、墓くらいなければあまりに哀れだって、あいつら口を揃えて言ったらしい」
ぽかん、とシンクが口を開け、呆ける。
はは、とルークは短く笑った。
「俺だっていらねぇよ、あんなの」
あんな哀れみの象徴など、自分だっていらない。不快なだけだ。
あいつらに哀れまれ続けるなんて、本当に冗談じゃない。
「だから、悪戯しかけてきた」
「悪戯?」
にたり、とルークは嘲笑に唇を歪め、パチン、と指を鳴らした。
途端に鳴り響いたのは、爆発音。ルーク、と刻まれいてた方の慰霊碑の周囲に張り巡らせた第七音素を、遠隔操作で超振動として発動させたのだ。
ローレライの力の一部を引き継いだ今のルークには、たやすいことだった。
「ナタリアだろうが、ティアだろうが、誰の哀れみも俺はいらねぇ」
王城を見上げ、砕け散った慰霊碑の欠片がパラパラと雨のように降り注ぐのを眺め、シンクが可笑しそうに口の端を吊り上げ。ルークもまた、楽しげに喉を鳴らすと、二人はざわめきだした人の間をすり抜け、雑踏に姿を消した。
END