月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ミュウとルクノエ。
小説というより、散文詩…っぽいような感じです、多分(多分て)
雰囲気小説と言えばいいかな。心理描写中心。
たまにこういうのを書きたくなります。
軽めですが、同行者に厳しめです。
人間になれたらよかったのにと嘆くミュウの頭を、ルークの手がそっと撫でた。ゆるゆると上がる、涙で一杯のつぶらな目に、ルークの笑顔が映る。
その首が横に振れた。
お前は、そのままでいいよ、と。
「人間なんて醜いもんに、お前はならなくてもいい」
どうかそのまま純粋な生き物でいて欲しい。
それが、それこそが俺にとって何よりだから。
お前を守れているのだとそう思えることが支えだから。
穏やかに細められた翠の目が、哀しくて悲しくて、ミュウはぼろぼろ涙を流す。
ご主人さま、ご主人さま…ッ。
短い腕を精一杯伸ばして、ルークの胸元にしがみ付く。
優しく抱き止めてくれる手が嬉しい。哀しい。愛しい。
大好きな大好きなご主人さま。
この丸い爪に、丸い牙に鋭さがあればいいのに。この人を悲しませるものすべてを切り裂くことが出来たらいいのに。
(でも、わかってる、ですの)
そんなことをご主人さまが望まないことくらい。
自分には血に塗れずにいて欲しいと願っていることを、ミュウは知っている。
自分はとうに罪に塗れた身なのに、それでも、お前は純粋だと言ってくれるルークの気持ちが、ミュウはひたすらに哀しかった。
大好きな主人が傷つかないよう、守れないことが悔しかった。
*
私にも戦う力があればよかったのにと嘆くノエルの肩を、ルークがそっと抱き寄せた。ほろほろと涙を零すノエルの耳に、ルークの声が響く。
いいんだ、と。
「ノエルにはそんなの、いらないから」
一緒にいてくれるだけでいい。側で笑ってくれているだけでいい。
それだけで、癒されるから。
それだけで、幸せだから。
優しく、穏やかに笑うルークが愛しくて、切なくて、哀しくて、ノエルは胸を痛める。
ずきずきと心が痛い。ルークを守ってやれない己の非力さが、哀しい。悔しい。
手を伸ばし、ノエルは持てる力で精一杯、ルークを抱き締めた。
温かなこの身体が、どこかに消えてしまわぬように。
もう傷つかないで、と願うように。
ああ、剣を握って戦うことが出来たなら。譜を唱え、術を使うことが出来たなら。
せめて、貴方とともに戦うことが出来たなら。
(でも、わかってるんです)
そんなこと、ルークさんが望まないことくらい。
私には、血に濡れないで欲しいと願っていることを知っている。
でも、この心には、貴方を傷つける人たちを憎む気持ちが生まれているのに。私は貴方が思うほど、綺麗な存在ではないのに。
生まれて初めて心から愛した人を守れないことが、悲しかった。
*
守れ、救え、贖え。
強要されるばかりの中で、ミュウとノエルだけは、それを強いない。
そのことが、ルークには嬉しい。だからこそ、二人のことを自ら進んで守りたいとそう思う。
二人が傷つかないよう、守りたいとそう思う。
ミュウとノエルだけが、自分の心を守っていてくれるから。二人がいるから、自分は戦える。前に進める。
(ミュウとノエルがいてくれなかったら、きっと俺はとっくに何もかも諦めてる)
人であろうとすらしないだろう。生きようとすらしていないはずだ。
死んですべてから逃げ出す道を、きっと選んでしまっている。
けれど、死にたくないと、今は思う。ミュウとノエルが、傷つくだろうから。泣くだろうから。優しい二人が、後悔するだろうから。
ルークは知っている。戦う術を持たないことで、二人がルークを守れないと苦しんでいることを。
もし自分が死ねば、二人の苦しみが増すだろうことを、知っている。
(だから、俺は死なない)
死ねない。ミュウとノエルのために。
どんなに罪が重くとも、生きていたい。二人のために。二人とともに在りたいから。
(いつかすべてが終わったら)
ミュウとノエルと、三人で生きていきたいとルークは笑う。
心を守ってくれる二人と、ともに生きていきたい。それはきっと幸せだ。
「だから、俺は帰ってくる」
たとえ、この身が消えてしまったとしても、それでも。
必ず。
「ミュウとノエルのもとに」
他の誰でもない二人のもとに。
だから、待っていて、とルークは言わずとも待ち続けるだろう、ミュウとノエルを抱き締め、誓いを告げる。
ミュウとノエルはルークを抱き締め、深く頷き、誓いを受けた。
二人は誓いを守って、待ち続け──セレニアの花畑ではなく、二人が待っていたシェリダンへと帰って来たルークを、二人は力いっぱい抱き締め、涙とともに笑顔で迎えた。
END