月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
はつか猫さまリク「グランツ兄妹以外のユリアの子孫」です。
グランツ兄妹に厳しくとのことだったのですが、ヴァン出てませ…。
ティアには厳しいです。
キムラスカ&マルクト捏造。ガイも捏造。出てきてませんが、アッシュも。
ティアが原作以上にエゴイスト度が増してます。
ルークはスレてますー。
注!ティア厳しめ
ティアは不満だった。首輪をつけられ、戦闘のときのみ、譜歌を歌うためという理由でしか自由に出来ない声も、不満を示そうとするたびに手酷く打ち付けられる鞭にも、苛立ちを募らせていた。
これではまるで罪人の扱いではないか。自分はきちんとルークにもルークの母にも謝罪した。公爵邸を襲撃したのも、あれは個人的なものであり、ヴァン以外を傷つける意図はなかったのだと説明もした。
ルークを連れ出してしまったのだって、結局は事故だ。迂闊に飛び込んできたルークにだって責任はあるだろうに。
キムラスカというのは、どうしてこうも無礼で傲慢で思いやりのない人間たちばかりなのだと、ティアは憤慨に眉を吊り上げ、ルークの背を睨んだ。
けれど、ルークは振り向くことすらせず、ティアを人間ではなく、回復譜業とでも思っているかのような扱いだ。グラデーションを描く朱色の髪が綺麗だと思う自分に苛立つ。
ティアはギリリ、と唇を噛み締めた。
キムラスカなど、滅びてしまえばいい。無能な王族ばかりなのだから、と内心、唾棄する。
ルークを守るために取り囲んでいる白光騎士たちも、無能者ばかりだ。ルークには戦う力があるにも関わらず、ただ守って甘やかしているとしか、ティアには見えない。
特に問題なのは、ルークの使用人であるガイだ。ガイがルークを甘やかすから、あんなふうに傲慢な人間に育ったのだと、ティアはガイも睨む。
が、やはりガイもティアへと視線を向けることなく、甲斐甲斐しくルークの世話をしていた。
(まったく、甘いにもほどがあるわ…!)
ティアの常識からすれば、ルークはただただ傲慢で我が侭な貴族のお坊ちゃまでしかなかった。
そんなお坊ちゃまに従属させられる己の身の不運を、ティアはアクゼリュスまでの道中、ひたすらに嘆き、己の罪を省みることはなかった。
*
親善大使一行が救助を終え、一刻もしないうちに、地響きが起こり、アクゼリュスは崩落した。
幸い、アクゼリュスに残っていたのは、運び出しきれなかった死体と再三に渡る警告を無視し、頑なな姿勢を崩さなかった者たちが数人ばかりであり、鉱物までもが瘴気に犯され、鉱山としての価値も下がっていたため、現在、アクゼリュスを領地としているマルクトにとっても、さほど手痛い被害ではなかったのが救いだろう。
だが、アクゼリュスの崩落は、人々に不安を与えた。もしかしたら、自分たちが立っている大地もまたいずれ崩落するのではないか、と。
キムラスカ、マルクトは恙無く和平を結び、両国は足並み揃え、崩落の原因、並びにダアトの協力により、外郭大地の調査を始めた。
そして、オールドラントの民は、自分たちが薄氷の上に住んでいるようなものであることを知った。今にも壊れてしまうかもしれないパッセージリングに支えられた、脆弱な大地が自分たちが暮らす場所であることを。
世界の存亡を掛け、キムラスカ、マルクトはダアトやケセドニア、ユリアシティと協力し合い、預言からの脱却を目指し、外郭大地を降下させる作戦を取ることになった。
幾つかの問題を孕んだままに。
「あの兄にして、まさにあの妹あり、だよな」
長い会議から解放され、疲れきった様子で私室のベッドに倒れこんだルークに、ガイが苦笑を零す。そのままだと、礼服が皺になるぞ、と言えば、じゃあ、脱がせよ、と悪戯めいた笑みが返ってきた。
「自分でやらせなさい、とか言い出すだろうな、あの女に見られたら」
「甘やかされて何が悪いんだっつーの」
「はは、だよな。お前はそういう立場の人間なんだし」
手を伸ばし、ガイは横たわったままのルークの靴を脱がせ、服のボタンを外していく。ルークは黙ってガイに身を任せ、目を閉じた。
目の下には、隈が刻まれていて、ガイは眉を顰め、疲労の色濃いルークの頭をくしゃりと撫でた。
「大丈夫か?」
「んー、まあ、何とかなるだろ。俺一人だけだったらきついけど、アッシュが半分以上は引き受けるって言ってくれてるし」
「ったく、ヴァンの奴が余計なことさせしてなけりゃ、お前やアッシュが超振動なんて使う必要なかったのにな」
ガイの声音に、隠しきれない苛立ちが覗く。ヴァン・グランツ──ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデがかつて己の部下だっただけに、憤りも深かった。
外郭大地降下作戦に当たって、予想される障害。その一つが、ヴァンとヴァンが率いる六神将の存在だ。もっとも、この六神将も、現在、ヴァンのもとに残っているのは、リグレットとラルゴの二人だけだが。
ガイは深く息を吐く。パッセージリングにプロテクトが施されていることがわかったのは、つい先日のことだ。
ジェイド・カーティス、サフィール・ワイヨン・ネイス、両博士の指示のもと、シュレーの丘のパッセージリングを調査し、操作しようとしたところで判明したのだ。ヴァンがダアト式譜術を使える導師イオンを攫い、セフィロトの入り口を開かせていた理由もそれで判明した。
パッセージリングのプロテクトを解除するには、時間が掛かる。そんな猶予は今の世界にはない。プロテクトを破壊し、命令を上書きする方法が取られることが決定された。
すなわち、ローレライの完全同位体として、超振動を使えるアッシュとアッシュのレプリカであるルークの手によって。
「本当に迷惑極まりない兄妹だよ。ホド戦争で死んでくれてりゃよかったのにな」
「死んでいたところで、困らないしな。…当人たちは、そう思っちゃいないようだが」
「ユリアの血筋を守るために、って?」
「ふふ」
愉しげに笑う敬愛してやまない主の姿に、ガイは苛立ちを抑え、笑みを零した。
*
キビキビと歩け、と首輪についた鎖を引かれ、ティアは前のめりに倒れそうになりながらも、前に進んだ。
鎖の先にいるキムラスカ兵をきつく睨む。こんな横暴がいつまで通るのだろう。
(どうしてイオン様は何も仰らなかったの…ッ)
目の前で教団員である自分が奴隷同然の不当な扱いを受けているというのに、哀しげに目を伏せるばかりで、何も言わなかったイオンに歯噛みする。
キムラスカから、ここザオ遺跡へと向かう船に乗る前にも、いくらでも抗議する時間はあったはずだ。なのに、何故。
何故、自分に対する扱いを見てもなお、黙したままだったのかと、ティアは眉を顰めた。
(イオン様はまだ幼いから…きっとキムラスカに言い包められたに違いないわ)
鋭く目を細め、ティアはルークを睨む。よくもイオン様まで丸め込んでくれたものだ。ティアはますますキムラスカへ、ルークへと憎悪を滾らせた。
幼いという理由をつけて、自分が導師を侮辱していることにも気づかずに。
「さっさと歩け」
「ッ」
水気のない砂漠の砂に足を取られ、歩くことすらままならない。乾いた風がティアの柔肌をチリチリと痛めた。ジリジリと肌を焼く太陽の熱も、疎ましい。
顎の先から滴る汗も、何もかも、疎ましかった。理不尽だと、ただただ己の境遇を嘆き、白光騎士たちに囲まれてはいるものの、すぐ側にいる、フードを被り、ラクダに乗ったルークを呪うことで、ティアは自分を慰めた。
ザオ遺跡に入ると、中は外とは違い、ひんやりと冷えていた。汗がゆっくりと引いていく。
だが、遺跡自体が砂に埋もれているためか、時折、パラパラと落ちてくる砂が顔に掛かり、口の中へと入り込んできて、ティアは不快そうに唾とともに吐き出した。
口の中の水分が奪われ、喉が水を求め出す。水を、と唇を動かし、首輪を引く男に訴える。
男が面倒そうにティアの唇に水が入った水筒の口を押し付けた。傾いたそれから、生温い水が滑り込んでくる。
乾いた舌が僅かに潤ったところで、水筒はあっさりとティアの口から離れていった。足りない、と声が出ないため、唇を必死で動かし訴えるが、男は水筒の口を閉めてしまった。
砂漠を旅する上で、水がいかに貴重であるかは知っているが、これではあんまりだ。ギリリ、と唇を噛み締め、ティアが男を睨む。それくらいしか、今のティアには出来ない。
罪人が、と男が忌々しげに呟いた。
(いつまでそんなことを…!)
自分の謝罪を受け入れなかったのは、キムラスカであろうに。あれは個人的なことだった。それだけだ。ルークを巻き込むつもりなどなかったのだと、あれほど口を酸っぱくして説明してやったというのに、こうも理解しないとは。
傲慢だからだわ、とティアは呻いた。自分たちこそが正しいと思い込んでいる、視野が狭い、傲慢な国め。貴族なら何でもしていいと思っているのかと、キムラスカを象徴する色を持つルークへと憤りを募らせる。
ティアの目には、キムラスカは狭量で傲慢な国としてしか映らない。たとえ、護衛を眠らせたことで、屋敷にいたシュザンヌや使用人たちが侵入者に殺されていたかもしれないと言われようと、連れ出され、前衛を押し付けられたルークが死んでいたかもしれないと言われようと、それは変わらなかった。
誰もが無事だったのだ、『かもしれない』なんて過程の話に、何の意味がある。
ティアには、そう思えた。
「これがパッセージリングか」
足を止めたルークたちに従い、ティアもまた足を止めた。ここまで譜歌を歌い続けてきたせいで、喉がますます渇いている。
疲労も濃かった。足が重く、腕もだるい。何より、喉が痛かった。
「……」
自分とは違い、多少の疲れは見えるものの、至って健康そうに見えるルークに、涙が出てきそうだった。髪も肌も痛み、ボロボロの自分と違い、ルークの髪は砂漠を越えてなお、輝き、肌はきめ細かかった。悔しくて仕方がない。何故、自分ばかりがこんな目に。
アクゼリュスで、死んでしまえばよかったのに、とティアはひたすら呪詛を綴る。ルークもキムラスカ人も何もかも。自分に不当な処遇を強いる者たちなど、皆皆…ッ!
「で、ジェイド。これはどうすれば起動するんだ?」
「ユリアシティに残る書物に寄れば、ユリア式封咒が掛けられているため、起動させるには、はユリアの音素が必要とのことです」
「ふぅん。それって、ユリアの血を継ぐ者の音素、ってことか」
「まあ、そういうことですね」
ユリアの音素。ユリアの血。
パッと俯かせていた顔を上げ、ティアは目を輝かせた。
大地を支えるパッセージリング。あれを起動させるには、ユリアの血脈が必要なのだ。つまり、ユリア・ジュエの直系であるフェンデ家の生き残りである自分が。
起動装置らしきものの前に立つ、朱色の髪と蜂蜜色の髪に覆われた二つの背を見つめる。ティアは口の端をゆっくりと吊り上げた。
二つの背中が振り返り、翡翠と赤がティアを見た。
「お前の出番のようだぞ、ティア・グランツ」
ルークの台詞とともに、ティアの首輪から繋がる鎖を持つ男が、鎖を引いた。が、ティアはぐ、と踏み止まり、首を振る。ぱさぱさと、乾いて痛んだ髪が音を立てる。
ぱくぱくと口を動かせば、ルークが訝しげに首を傾げた。
「何か言いたいことがあるようだな。──声帯の戒めを解け」
「はっ、畏まりました」
男が手の中の鎖につけてある、部分的な封印術が掛かる小さな譜業装置のスイッチを押すと、ティアの喉から圧迫感が消えた。これで声が出せる。
ティアはにっ、と口角を吊り上げ、勝ち誇ったような目をルークへと向けた。ルークの眉が跳ね上がった。
「私が必要なのね?」
「正確には、貴方の音素が、ですが」
答えたのはルークではなく、ジェイドだった。当のルークは、腕を組み、つまらなそうにティアを睥睨している。
その余裕綽々の態度に苛立ちを覚えながらも、ティアは笑みを崩さず、ルークにス、と目を細めた。
「それでも、私が必要なことに代わりはないわ。そうでしょう?だって、ユリアの血を引くのは、兄さんと私だけだもの」
「……で、何が言いたいんだ、お前は」
面倒そうにため息を零すルークに、ティアの笑みが深まる。
その驕りに満ちた笑みは、酷く醜いものだった。
「私を解放し、今までの不当な扱いを謝ってもらうわ」
ピシリと周囲の空気が凍った。ジェイドのように、呆気に取られ、言葉を失くす者もいれば、ガイのように、あまりの怒りに言葉を失くす者もいた。
ガイの手が剣の柄に掛かる。それを一歩先んじて止めたのは、ルークだった。
「お前は己に課された処遇を不当だと思っているわけだ」
「当たり前でしょう!?こんな…まるで奴隷のような…!」
「お前の犯した罪を考えれば、生きているのが奇跡なんだがな。お前がフェンデの者でなければ、とっくに処刑してたけど」
「な…っ、何を馬鹿なこと言ってるの!」
「馬鹿なこと、ね。お前にとっては、眠らされ、クビが切られた護衛や使用人たちも、死んでたかもしれない母上や俺のことも、全部ぜーんぶ馬鹿なことをってことなんだろうな。…今までにも何人も死んでも馬鹿が治らねぇような奴、見てきたけど、お前はその筆頭だな、ティア」
翡翠の目が、ギラリと怒りに煌く。ティアはここで引いてはダメだと己に言い聞かせ、ルークを睨み返した。
個人的なことだと、自分は説明し、謝罪した。確かに、白光騎士たちや使用人たちに迷惑を掛けたかもしれないが、彼らをクビにしたのは、ファブレ公爵の責任だろう。なんて非情な親子なの、とティアはルークへと軽蔑の視線を向ける。
ルークが鼻を鳴らし、不快だと言わんばかりに顔を逸らした。
「いいの?そんな態度を取って。協力しないわよ。協力して欲しいなら、頭の一つも下げて、頼んだらどうなの!」
声を荒げ、ティアは叫ぶ。ルークを屈服させたかった。整った顔を屈辱に歪めさせてやりたかった。
四方八方から向けられる殺気に屈しないためにも、ルークが間違っているのだと、自分にも周囲にも認めさせてやりたかった。
「…ジェイド」
張り詰めた緊張と沈黙を破ったのは、ルークだった。何でしょう、と飄々とした態度を崩さず、ジェイドが眼鏡のブリッジを押し上げ、ルークに顔を向ける。
ルークが考え込むように顎に手を当てた。
「ユリア式封咒ってのは、生きていないと反応しないのか?」
ルークの言葉に、ティアは目を瞠った。今、ルークは何を言った。どういう意味だと、息を呑む。
ルークは考え込むような表情のまま、どうなんだ?とジェイドに対して首を傾いだ。
「そうですねぇ、こればかりは何とも…。試してみますか?彼女の腕でも切り落として、その腕で反応するかどうか。それで反応するなら、これ以上、彼女を連れ歩く必要もなくなりますしね」
「譜歌は?」
「ああ、それでしたら、問題ありません。歌詞も象徴も何度も何度も歌ってくれたおかげで、彼女が知るものはすべてこの頭に入れました。彼女にも問題なく伝えることが出来ますよ」
「そうか。…なら、試してみようか」
温度のない翡翠と赤の目に、ティアは身体を震わせた。まさか、と緩々と首を振る。けれど、返ってくるのは、冷たい視線だけで。
誰からも、自分に対する同情は得られそうになく、ティアはヒッ、と短く悲鳴を上げた。
「うそ、でしょう?」
「ガイ、お前がやるか?」
「喜んで」
「だ、そうだ」
「っ、い、嫌よ…!協力すればいいんでしょう?!」
どうして自分がこんな目に、と嘆きながら、よろよろとパッセージリングへと近づく。ティアは今だにわかっていなかった。わかろうとしていなかった。
自分が何故、ルークや周りの人間から憎悪を向けられるのかを。自分がしでかした罪の重さを、理解していなかった。
まともな軍人教育も受けていないにも関わらず、軍人風を吹かせる愚か者によって、自分たちの友が路頭に迷わされている姿に、怒りを覚えない者がいようか。
実戦など何も知らない子どもに剣を持たせ、前衛で戦わせ、己は後衛でのうのうと歌を歌っているような女を、憎まぬ従者が、親がいようか。怪我をし、死んでいても可笑しくなかったというのに。
いずれ、国を率いていく立場にある主君を散々に侮辱され、憤らぬ者もいるまい。
その全てに、ティアは気づかなかった。個人的なことだったのと、謝罪をしたのだと言い張るだけで。謝罪を押し付け、謝罪を受け入れない方が悪いのだと、そう主張する罪人を誰が許せる。
「…ッ」
ティアはパッセージリングの前に立った。リングが光り出し、起動する。
同時に、身体の中に何か得体の知れないものが入り込んできたような気がした。
「…?!」
ぐらりと眩暈を覚え、ティアの膝が折れる。ドッ、と倒れこんだ身体を支えてくる者は誰もいなかった。助け起こしてくれるような者も。
身体が酷く、重かった。
「…やはりですか」
「何がやはりなんだ、ジェイド」
聞こえてきた会話に、ティアは訝しげな目を向けた。眼鏡の奥から、ジェイドが自分を観察している。
その目に、恐怖を抱く。あれは、人に向ける目ではない。
「パッセージリングは瘴気で侵されています。ですから、起動する際、もしかしたら、瘴気を取り込むことになるかもしれないと考えていました」
「ふん、今頃、言うか。人が悪いな、お前も」
苦笑するルークに、ティアは拳を固める。どうしてそんな暢気でいられるのか。
自分がいなくなれば、パッセージリングの起動はどうする気だ。ユリアの血は絶えてしまう。
自分は必要なはずだ。世界にとって、ルークにとって、必要なはずなのに!
「私を守らなくていいの?私が本当に死んでもいいの?私がフェンデの者だから生かしておいたとあなた、言ったじゃない…ッ」
倒れ伏した身体を起こし、枯れた喉で叫ぶ。声は掠れ、聞き取りづらかったが、それでも、伝わったらしい。
ハッ、とルークが嘲りの笑みを零した。
「なぁ、ティア。お前さ、ユリアの血を引くのが、本当にお前らだけだと思ってるのか?」
「…え?」
「二千年、経ってるんだぞ、ユリアが死んでから。その間、直系一本だけで受け継がれてきたとでも?近親相姦を繰り返しでもしなけりゃ、無理だろ、そんなの。安心しろよ。お前やヴァン・グランツが死んでも、ユリアの血は絶えない。譜歌もな。さっき、ジェイドが彼女って言っただろ。フェンデに負けないくらい濃くユリアの血を引いている女性がいるんだよ」
「嘘だわ、そんなの…ッ」
「いいや、嘘じゃない。フェンデの者と幾世代ごとに婚姻し、ユリアの血を血脈に混ぜてきた一族がいるからな」
ティアは海色の目で呆然とルークを見つめた。そんな馬鹿な、と乾燥し、ひび割れた唇が動く。
ルークの隣に立つガイが、にやりと笑みを浮かべた。
「フェンデの者が主君としてきたガルディオスの一族がそうさ」
「ガルディオス…って、だって、ホドと一緒に滅んだって、兄さん、が」
「ああ、表向きはね。だが、残念ながら、俺──ガイラルディア・ガラン・ガルディオスはこうして生きてる。姉であり、君に代わってユリアの譜歌を継ぐことになってるマリィベル・ラダン・ガルディオスもね」
フェンデ家は、始まりはユリア・ジュエの血筋を守るためだったとはいえ、代々、ガルディオス家に剣として仕えてきた。中には、ルークの言うとおり、ガルディオスの者と結ばれた者もいただろう。あるいは、ガルディオスともフェンデとも関わりのない者と結ばれた者もいたかもしれない。
今まで、考えたこともなかった。ルークに言われるまで、ティアは考えたこともなかった。
ユリアの血を引くのは自分と兄だけで、それを誇りに思ってきたのに。だからこそ、守られて当然だと、思ってきたのに。
なのに。私は。
「お前の役目はさ、ティア」
ティアは目を見開いたまま、ルークを見上げた。優しいと言えるような笑みを、ルークの美しい顔は浮かべていた。
「ユリア・ジュエの直系として、ユリア式封咒を解くことだ。そのために瘴気を取り込み、死ぬことになっても」
「……私は」
「それがお前の償いだ。もし、償いだと思えないなら、ユリアの血筋を守るためだと思うんでもいいぜ。主君を守るために死ぬんなら、こっちの方が本望かな?」
くすくす、ルークが笑う。朱色の髪をサラサラ揺らして、笑う。
ティアはもう何も言えなかった。
「最期まで頑張ってくれよ、ティア。マリィに瘴気を取り込ませたくはないからさ」
優しい声、優しい笑み。ルークの優しさに溢れたそれらは、すべて会ったことのない主であるマリィベルに向けられたものなのだと悟ったティアは、壊れたような笑みを零し、海色の目から一粒、涙を落とした。
ルークを誰よりも憎んだのは、ルークに惹かれてしまったからだったのだと気づいたけれど、すべてはあまりに、遅かった。
END
クリムゾンが殺される直前でマリィとガイを救出したため、ガイはファブレを恨んでません。
それどころか、素性を隠すため、ルークに仕えたことで、アッシュとルーク至上主義な身も心も使用人となってます。
マリィベルはピオニーが皇帝になってから、マルクトへ。ガイと違って、第七音素の素養があったということで、現在はユリアシティにも行き来をし、ユリアの譜歌の勉強中。
あ、ティアとヴァンはガイやマリィが助かったことを知りませんでした。(ヴァンはのちにファブレ邸で再会して知りますが)
ラスト、ティア→ルク要素が入りましたが、はつか猫さんに楽しんで頂けたなら幸いです。