月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
ディススレルク。
アクゼリュス後、一人にされてたルークを攫っちゃったディストの話。
歪んでるけど、甘い二人。
注!同行者厳しめ
ルークの頬を伝い落ちる一粒の涙に、サフィールは眼鏡の奥で目を瞠った。
つぅ、と伝う涙は顎の先から滴り落ちた。
「…貴方でも泣くことがあるんですね」
ふ、とルークの唇に笑みが滲む。皮肉に満ちた笑みに、サフィールは思う。
その笑みこそ、貴方に相応しい、と。
「それじゃまるで俺に心がないみたいじゃねぇか」
「そんなことは思っていません。むしろ、貴方は人よりも人らしい」
「…お前よりもか?サフィール」
「ええ」
躊躇いなく頷くサフィールに、ルークが苦笑う。ほら、と声に出さずにサフィールは呟いた。
(貴方の方が人らしい)
真実、人である自分よりも。だからこそ、彼は傷付いた。信じまいと思いながら、ヴァンを信じて、裏切られて。
ルークの顎の先から、流れ落ちた涙を探す。床に落ちたそれは染みてしまったらしく、サフィールの目にはわからなかった。
ルークの頬ももう乾いて、流した跡もわからない。だが、彼がダアトにある六神将ディストとしてのサフィールの研究室の窓の外を通りかかったヴァンを見て、一粒涙を流したことに違いはない。
サフィールは親指の爪をキリ、と噛んだ。前歯を強く立て、噛みきる。
深爪した親指の先から、血が滲んだ。
「……」
腹の底にぶくりと苛立ちが湧く。
この私のルークを、傷付けた者がいることが赦せない。それは、ヴァンに限ったことではない。
ルークの信頼を得る努力もしなかったくせに、その価値すらないくせに、何故信頼しなかったのかと責めた愚か者たちもだ。
自分の罪を棚に上げ、罪を見たくないからとルークにすべてを押し付けた醜悪な人間。彼らもまた赦せない。
断罪を、とサフィールは策略を頭の中で巡らせる。ただ殺すだけではもの足りない。
死神と呼ばれるこの身の恐怖を、とくと味わわせなければ、満足出来ない。
サフィールは先ほど涙を流したことが嘘のように、のんきな顔で欠伸を零すルークに、目を眇めた。
「ルーク」
「ん?」
「私に拾われたこと、後悔していますか?」
アクゼリュスに置いていかれ、精神をアッシュに連れ回されて、抜け殻になっていたルークの身体をサフィールは浚った。捨てられていたから、拾ったのだ。
取り戻したと言ってもいいかもしれない。ルークというレプリカを作ったのは自分。だから、ルークは、もともとは私、ディストの、サフィール・ワイヨン・ネイスのものなのだから。
完全同位体として生まれた、完璧なレプリカ。最高傑作。
愛しいレプリカドール。いつかこの手に取り戻す日を、どれほど待ち望んだことか。
「拾われたなんて俺は思ってねーよ」
くつりと喉を鳴らし、ルークが笑う。笑みを浮かべたまま、ルークがサフィールに近寄り、するりと首に腕を回してきた。
目の前の翡翠を見下ろす。容姿の美醜を意に介さないサフィールの目にも、それは美しかった。
「俺はもともとあんたのもんだろ、サフィール」
俺の愛しい死神。
ルークの唇がサフィールのそれに重なる。ルークの唇は冷たく、乾いていた。
「…ええ、そうですよ。私の美しい人形」
人よりも優しく、美しいルーク。
人の理に縛られることのない、自由であるべき存在。
ルークを真に自由にすることが、今のサフィールの目的であり、すべてだった。大爆発を何としても回避する方法を見つけなくては。
レプリカだからと、被験者に縛られる必要はない。アッシュとの間に繋がっていたフォンスロットも閉じた。シンクから聞いた限りでは、ルークに繋がらないと怒っていたらしいが、知ったことではない。
ルークは被験者であるアッシュのものではない。私のものだ。
この生きた人形は、もう誰にも渡さない。
うっそりと笑むルークの唇をぺろりと舐め、サフィールは朱色の髪に指を滑らせた。
END