月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
六神将ルーク。アシュルク。
一度書いてみたかった…。
名前表記はアッシュがレプリカルーク、ルークが被験者ルークです。
コーラル城で生まれたレプリカルークは、完全同位体で超振動も使えるものの、髪の色や目の色が被験者とまったく違っていたため、ヴァンはすり替え断念。
レプリカルークはアッシュと名づけられて、ダアトへ。
そこでリグレットやディスト、ラルゴたちを父や母と慕い、アリエッタにも姉と懐き。ヴァンにも屈託なく懐いて、ヴァン&六神将は世界滅亡から預言回避で世界救済へ目標チェンジ。
アッシュは弟(シンク)もできて日々、六神将ライフを満喫してます。被験者ルークにもいつか会いたいな、とか思ってます。
ヴァンからいろいろ話を聞いて、キムラスカの仕打ちに腹立てるので、いつか助けるんだ…!とも思ってる。
ルークは誘拐時の記憶こそないものの、他の記憶はしっかりあります。なので、ナタリアから約束云々は言われてませんが、ナタリアから執着されて、女性不信気味。
信用している大人はヴァンだけです。
ティアに誘拐されて、タルタロスまではほぼ本編どおりかな…。
「灰の騎士」のルークとアッシュの立場が入れ替わったような話になったような(汗)
注!同行者厳しめ
覚悟をしていた。剣を持つということが、どういうことであるのか。
それを振るった結果、どうなるかも。
けれど、それがつもりでしかなかったことを、向かってくる神託の盾騎士団の鎧を纏った兵が向かってくる姿に、ルークは初めて気付いた。
ただただ、目を反らしていただけだったのだ。
剣が迫って来る。
わかっているのに、身体が硬直し、動けない。
ご主人様、とミュウが鳴いた。
「待て!」
キィン…!
鋼が触れ合う鋭い音が、ルークの鼓膜を打つ。呆然と見開かれた翠に、風になびく濃い金色の髪が映った。
「アッシュ師団長、何故…!」
「馬鹿者!この方を誰だと思っている!…いや、わからなくとも、俺は命じたはずだ、なるべく殺すな、と!俺は相手の状況も見極められない部下を持った覚えはない!」
口ごもり、顔まで覆う兜の下から、ルークを確かめ、青ざめているらしい男に気付くことなく、ルークは自分を助けたアッシュと呼ばれる青年を見つめた。
薄っすらと朱色がかった金髪が、目に焼き付くほどに。
赤い髪、と鎧の兵が呟いた。
「申し訳ありません。…ルーク・フォン・ファブレ様ですね?」
くるりと振り向くや否や、膝を着いたアッシュに、ルークは戸惑いの目を向けた。鎧は纏っていないものの、アッシュの顔は仮面で覆われ、口元だけが覗いている。
見れば、鎧をガシャガシャと鳴らしながら、背後の部下も膝を着いていた。
そうか、とルークは口の中で呟く。長く伸びた紅い髪を掴む。
自分が助かったのは、助けてもらえたのは、この髪の色のためか。
(キムラスカ王家の色、か)
赤の髪。翡翠の目。
王家の証を持つ、年若い王族は今は自分一人。子孫を為すためにも、自分がキムラスカにとって貴重な人間であることをルークは自覚している。だからこそ、生きて帰らなければならないという思いと──だからこそ、死んでしまってもいいという思いを同時に抱いていた。
王家の色を持って生まれなかったならば、自分には価値がなかったのではないかと、そう思えてならないからだ。
王家の証をもって生まれてこなかった一つ上の王女であるナタリアが脳裏を過ぎる。彼女が本当に王と死んだ王妃の子なのかと、疑う者たちがいることをルークは知っている。その噂をナタリアも知っているのだろう。年を経るにつれ、増していくばかりのナタリアの自分への執着が、今のルークには疎ましい。
ふ、と吐息し、内心、首を振る。今はナタリアのことを考えている場合ではない。
幼いころに交わした約束をただのプロポーズと捉え、民に施しを与えることで己は王女として頑張っているのだと、目前の成果にばかり目を取られた、独りよがりな憐れみに酔う女のことなど、どうでもいい。
王女であるために、王家の証を持つ自分が他の女に興味を抱くことがないよう、メイドすらも遠ざけようと、嫉妬心を燃やす女のことなど、もうどうでもいいのだ。
幼いころのような情熱を、今のルークはナタリアに抱くことが出来なかった。彼女と国を導いていけるとも思っていない。
そうルークが考えていることを知っているのは、師であるヴァンだけだった。
「グランツ謡将より、子細、伺っております。よもや、このような場所におられるとは思いませんでしたが…。部下の非礼、代わってお詫び致します」
「いや…、助けてくれたこと、礼を言う」
顔をあげてくれ。
付け足すように言えば、アッシュの仮面が上がった。仮面の奥に金粉を散らしたような緑の目が見える。猫の目のようだと、ふと思う。
ずっと見ていたいような目だ。
「私は神託の盾騎士団特務師団団長アッシュと申します。グランツ謡将より、貴殿を発見した際は保護するよう、命じられております」
「ヴァン師匠から…。師匠は今どこに?」
「妹のしでかしたことだからと、取り調べのため、現在、バチカルに投獄されております。牢へと入る前に、我々、六神将に貴殿の保護を命じた次第でして」
悔しさの滲むアッシュの声に、ルークはうつ向き、唇を噛む。生真面目なヴァンのことだ。愚妹の罪は自分にも責任があると思っているに違いない。
実際、あの女はそれだけの罪を犯した。公爵邸侵入だけでも重罪であるというのに、第三王位継承者である自分を攫った。
実行犯である本人一人の身だけで償える罪ではない。キムラスカの法に照らすならば、近親者もろとも裁かれるほどの重罪だ。
もっとも、当の本人は、己の罪をまったく自覚していないのだが。いまだに襲撃は個人的なもので止むを得ないものであり、自分を攫ったのではなく、不幸な事故の結果でしかないと言い張っている。その上、払うべき敬意を向ける相手もわかっていない。
救いようのない馬鹿な女だと思う。あれで自分の常識こそが正しく、軍人だと胸を張っているのだから、驚愕に値する。それは、和平に協力しろと脅し、ティアと同じく剣を握れと、自分に戦力になるように強要する死霊使いにも言える。
「ところで、ティア・グランツは…」
「あいつなら、死霊使いと操縦室に…」
「ルーク様を置いて…ですか?」
「見張りをしろと言われた」
ぽかん、と呆けたように、アッシュが口をあんぐり開けた。部下の方も言葉を失っている。
取り繕うように、ごほ、とアッシュが空咳を零した。
「…本当にご無事で何よりです」
アッシュの声音には、ティア・グランツへの苦々しさが感じられた。
剣を持って、前衛で戦わされていると言ったら、ティアを即座に切り捨てそうだな、とルークはその声に思う。
ダアトの軍人というのは、ヴァンのような軍人こそ稀で、他は皆、あの女や導師守護役の少女のように礼儀知らずで常識知らずな者たちの集まりかと思いかけていたが、どうやらそうではないらしい。
ちら、とルークは己の手を見下ろした。先ほどまでカタカタと小刻みに震えていた手から、震えが消えている。あれほど、恐怖が頭を占め、すべてを真っ白に染め上げてしまったのに。
(アッシュ、か)
こいつのおかげだ。顔はわからないが、声で判断するならば、己とたいして年の変わらないように思える青年が、落ち着き払い、礼儀を示してくれるからだ。
向けられる視線や声にも、温かみを感じる。ヴァンぐらいにしか、あまり向けられることのない温かみを。
初めて会ったというのに、何故か懐かしい。まるで生き別れた半身に出会えたような。そんな感覚。
欠けているピースが埋まるような、そんなぬくもりを感じる。
ピク、とルークの指が微かに動く。目の前の金色の髪に指を滑らせ、仮面を外し、頬に手のひらを這わせたい。そんな欲望に似た願いが、ルークの中で頭をもたげていた。
ゆるりと息を吐き、熱を抑える。生まれて初めて抱く欲に、ルークは内心、戸惑いを覚えた。
「ルーク様が無事キムラスカに帰国なされるまで、護衛に付く許可を頂けますでしょうか?」
アッシュの申し出に迷う。側にいたい。側にいて欲しい。
そうは思うけれど、顔を隠しているような人間を信じてもいいのだろうか。
(…綺麗な目だな)
澄んだ目だ。真っ直ぐな偽りを知らぬ目だ。
きらりと緑の目が煌いている。優しいいたわりに満ちた視線。
ティアやジェイドのような、始めから世間知らずの我が侭坊っちゃんと決めつけ、嘲っている目とは違う。
(そういえば、師匠が言ってたな)
いつかお前に会わせたい者がいる。まだ若いが真っ直ぐな気性で、お前の力になるだろう、と。
きっと、こいつのことに違いない。
「…許可する」
承諾したルークに、アッシュがホッと息を吐き、仮面の下で屈託のない笑みを零した。
覗く唇に浮かんだその柔らかな笑みから、ルークは目を離せなかった。
もっとこいつのことが知りたいと、そう思った。
END