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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2009.05.07
ss

アシュルク。
切ない話です。痛々しいかもしれない。
アッシュとルークは世界を覆う瘴気の中和と引き換えに、二人で過ごす日々を手に入れ、二人で隠れ住んでます。
仲間は出てきてませんが、ジェイドはレプリカへの罪悪感もあり、ルークの味方。






思い出せない、とルークは泣いた。
今まで書いた日記を読み返しても、そのときのことが思い出せない。こうして日記に書いてあるから、それはあったことのはずなのに。あったはずの過去なのに。

「俺の中から、消えていく」

怖い怖い怖い。
ルークは膝を抱え、泣きじゃくる。
怖い怖い、怖いよ、アッシュ。

ぼろぼろと涙を零し、ベッドの上でガタガタ震え、ルークは一人で泣いた。
アッシュには、言えない。こんなこと、誰にも言えない。
アッシュが出かけていてよかった。
おかげで、こうして不安に震え、一人で泣ける。アッシュには、こんな酷い顔は見せられない。
泣き顔なんて、見せられない。

「…う、あ…あああ」

日記を捲り、ルークは必死で記憶を探る。
昨日のこと、一昨日のこと、三日前のこと。
一週間前のこと、一ヶ月前のこと。
そのあたりまでは、具体的とまではいかないが、思い出せる。
けれど、捲って捲って、三ヶ月前のこととなると、もうわからなくなった。日記には、アッシュが怪我をしたのに、薬が切れていて困った、と記されている。
そんなことなら、きっと忘れないはずだ。なのに、記憶の引き出しをどれだけ引っ繰り返しても、出てこない。

(半年前は、どうしてったっけ)
ぱらぱらとページを捲る。
アクゼリュス。
ただ一言だけ記されているページがあった。他には何もない。真っ白なページ、二ページに渡って、ただそれだけが記されている。
あとは、ない。

「アクゼリュスって…なんだっけ?」

ぞわりと背筋が震える。
ジェイドから一人、聞かされたことを思い出す。瘴気中和をアッシュと二人で行ったことで、お互いの負担は軽減されましたが──貴方の音素が乖離を始めています、とジェイドは言っていた。
いずれ貴方の身体を構成する音素は完全に乖離し、貴方は消えてしまうでしょう、と言っていた。アッシュに伝えるかどうかは、貴方に一任します、とも。
痛ましそうな顔で、悲しそうな顔で。

「…あ」

アッシュと二人でやっと手に入れた、平穏な日々。
それが、壊れてしまう。

(身体だけじゃ、ねぇのか)
記憶も乖離してしまうのか。怖い、それは、怖い。
アッシュを忘れてしまうのが、怖い。
嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。
アッシュを忘れたくない。忘れてしまいたくない。
ルークはペンを手に取り、日記の新しいページに、必死でアッシュの名を綴る。
アッシュアッシュアッシュアッシュアッシュ。

「アッシュ」

今は、覚えている。アッシュのことを覚えている。
けれど、アッシュとの出会いが、思い出せない。
ペンを握る手に力が入り、ペン先が強く日記に突き刺さる。ペン先が潰れ、インクが日記を黒く染めた。

「…アッシュ」

忘れてしまう、かもしれない。アッシュとの日々が昔のものから、サラサラと崩れ、消えていくように。
このアッシュへの思いも消えてしまうかもしれない。アッシュの名前すら、思い出せなくなる日が、来るかもしれない。
アッシュを忘れてしまう自分を想像する。アッシュに、誰?と問いかける自分の姿。アッシュはどんな顔をするだろう。きっと最初は怒るだろう。何を馬鹿なことを言ってるんだ、と呆れるだろう。
そして、本気なのだと気づいて、傷つくだろう。
──アッシュは、泣くだろうか。

悲しませたくない。嫌だ、ああ嫌だ。
アッシュのことを呼べなくなる日が来るのが、怖い。嫌だイヤだ。
アッシュのことを好きなことすら、忘れてしまったら。怖い怖い。コワイ。
誰か、助けて。
ルークはインクで指先を黒く汚し、泣き崩れる。涙が日記に落ち、染みを作る。
助けの声は、ない。救いは訪れない。

「イヤ、だ」

忘れたくない。アッシュを、忘れたくない。
きっと他にも忘れてはいけないものがあったはずだ。アクゼリュス。頭が痛い。きっとこれは忘れてはいけないことだったはずだ。
なのに、思い出せない。
アッシュのことも、思い出せなくなる日が来たら。

「アッシュぅ」

名の呼び方すら、忘れてしまったら。
自分は、誰よりもアッシュを傷つける存在になってしまう。
ルークは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、部屋を見回した。アッシュのことを傷つけたくない。泣かせたくない。
鼻を啜り、しゃくりあげながら、日記の最後のページを捲り、綺麗な紙を一枚、破り取る。
そこにルークは歪んだ文字で、さよなら、とだけ記した。
それをアッシュが簡単には気がつかぬよう、枕の下に折りたたんで隠す。枕を叩けば、ぽふっと沈んだ。

「…さよなら、アッシュ」

最初のうちは、きっとアッシュは自分を探すだろう。けれど、そのうち、自分は捨てられたのだと、裏切られたのだと思ってくれたならば、別の誰かを探すだろう。
そして、いつしか傷を忘れ、痛みを忘れ、誰かと笑いあう日々を、アッシュは。
悲しいけれど、幸せに過ごしてくれたら、いい。

「……」

ルークはふにゃ、と顔を歪め、ごしごしと瞼を擦った。ふらつきそうになる足を叱咤し、立ち上がる。
財布と剣だけを持ち、部屋を出る。──アッシュと二人で暮らす家を出る。
もう戻ってくるつもりは、なかった。

「さよなら」

パタン、と扉を閉じ、鍵を掛け、その鍵を郵便ポストに落とすと、ルークは当てもなく、歩き出した。
涙は流れ続け、服を濡らした。







































やっと追いついた、とアッシュは眉間に皺を寄せ、ルークの前に膝をついた。
ロッキングチェアに腰掛け、ギィギィと揺らしているルークの手を取り、見上げる。無垢な翡翠が、きょとん、と瞬き、あどけない表情でルークが首を傾いだ。

「会いたかった、ルーク」
「……?」
「ああ、わかってる。お前が俺を覚えていないことは」

悲しげに、アッシュは苦笑する。わかっている、わからないわけがない。
五年前、記憶の混乱にアッシュは悩まされた。自分が知らぬはずの記憶が、頭の中にいつのまにか生まれているのだ。何だこれは、と混乱するばかりで、誰に相談していいものかもわからずにいたが、それが誰のものであるか、ある日、知った。
──アクゼリュスの、崩落。
ヴァンに操られ、抵抗空しく、超振動でアクゼリュスを落としたルークの震える、手。
アッシュの頭へと流れ込んできた記憶。それは、ルークの記憶だった。

アッシュはルークの膝に頬を乗せ、息を吐く。ルークの手が、そっとアッシュの頭を撫でた。
目を閉じ、体温を享受する。ああ、温かい。このぬくもりを求めて、どれほどルークを探したことか。
この五年、どれほど、さ迷ったことか。
ジェイドがルークの味方についたおかげで、ここまで散々、回り道をさせられた。ルークの世話をしてくれる者も場所もきちんと用意してくれたことには、感謝は尽きないが。

「手間を掛けさせやがって」

唐突に姿を消したルークを探す日々の間にも、流れ込んでくるルークの記憶は、日増しに増えた。
瘴気の中和と引き換えに手にした、二人っきりでの安らかな日々。ルークがその日々をどれほどに愛し、幸せに思ってくれていたか。その記憶を見たとき、アッシュは一人、泣いた。
そして、ルークがすべてを忘れ、自分を傷つけることを恐れて姿を消した記憶も、流れてきた。
アッシュは流れてくる記憶を頼りに、ルークを探した。ルークが残した一枚の手紙を胸に抱き、さよならなんて認めるか、と必死で探した。
他の誰かなんて、欲しくなかった。欲しいのは、ルークだけだった。

「五年も、掛かったんだぞ」

五年を一人で過ごし、やっと今日、この日。
ルークの記憶に、追いついた。
ルーク自身に、追いついた。

「お前の記憶は、俺の中にある」

今も流れてくる記憶。自分の目を通してルークを見つめながら、頭の中で、アッシュはルークの目を通して、自分を見ていた。
涙が頬を伝っていく。言葉も忘れたルークの唇から、アッシュと名が刻まれることはないけれど、ぬくもりは確かにここにある。

「この馬鹿」

忘れられることが、悲しくないと言えば嘘になる。
けれどけれど、ぬくもりはあるから。身体はまだこの地上にあるから。だから、抱き締めてやれるから。
本当に消えてしまうまでは、どうか。

「もういなくなるな、ルーク」
「……」
「お前が俺を呼べない分も、俺がお前を呼んでやる」

ルークルークルーク。
五年間、呼べなかった分、名を繰り返す。頭の中で、自分の声が響く。
アッシュは、構成する音素が崩れ、白くなったルークの髪をさらりと撫ぜ、その額に口付けを落とした。
ルークの唇に、微かな笑みが滲んだ。


END


大爆発が不完全に起こり、記憶だけがアッシュに流れる…なんてこともありえなくはないのかなぁ、とそんな思いつきのままに…。

 

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楽しんで頂ければ、幸いです。

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