月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
CPなし。
ルークとミュウの話です。
ミュウを思う、ルークが、アッシュへと託すもの。
痛いな、とルークは目に突き刺さるような日の光に、眉を顰めた。
ゆる、と口からため息も零れる。
「ご主人さま、大丈夫ですの?」
「ん、ああ。ちょっと眩しいだけだからな」
大丈夫だと、手を伸ばし、頭の上に乗っているミュウの耳をぽふ、と叩く。
ミュウの耳が弾み、ルークの掌を打ち返してきた。
その感触が、心地よい。
(…ただ、少し)
ただ少し、白く視界を焼く光が。あの、光が。
ルークは、きゅ、と拳を握り締め、奥歯を噛み締めた。
どく、と心臓が速度を増す。
白い、眩い、鮮烈な光。
太陽の熱ならば、すべてを焼き尽くしてくれるような気がする。
この罪に塗れた身体すらも。
(…どうせ、何も残らないんだけどな)
レプリカとして生まれた、この身は、死ねば、何も残らない。残さない。
死体も残らず、結び付きあった音素が解け、消えていくだけだ。
ルークの脳裏を、消えていったイオンの姿が過ぎる。
イオンと同じように、死んだ自分はただ消えていく。
「…ごめんな、ミュウ」
「みゅ?」
不思議そうに頭を揺らすミュウに、ルークは苦笑する。
けれど、それ以上は言わなかった。
(一途に俺を信じて一緒にいてくれるお前に、俺は何を残してやれるんだろう)
足を踏み出し、しばし、ミュウと二人になりたくて、見晴らしのいい草原を進む。
休憩を取っている仲間たちは、あまり遠くまで行くなよ、と背に声を掛けてはきたものの、ついてくる気配はない。
靴底が、さくさくと柔らかな雑草を踏む。
だが、またしばらくすれば、踏み潰された雑草は再び、頭をもたげるのだ。
そんな強さが、自分にもあればいいのに、とルークは内心、嘆息する。
(俺が消える日は、いつなんだろう)
この身体に、アッシュの音素が流れ込み、ルークと名乗る自分が消えてしまう日は、いつなんだろうか。
怖いな、とルークは漠然と思う。
怖くて怖くて、身体が震えそうにすらなるけれど、それでも、その日が来ることを、覚悟してしまっている自分がいることを、ルークには否定出来なかった。
(ああ、でも、記憶は残る、んだっけ?)
黄色い毛皮のチーグル、スターのことが脳裏を過ぎる。
スターとそのレプリカは、自分たちと同じく完全同位体で、大爆発現象で一つになった。
記憶は受け継がれているようだと、ジェイドのためにスターの通訳をしたミュウから聞き出したことを思い出す。
(…なぁ、アッシュ)
いつか、アッシュが見ることになるかもしれない記憶に刻み込もうとするかのように、ルークは己のうちで言葉を紡いだ。
記憶として、アッシュに伝わればいいと、そんなことを思いながら。願いながら。
(頼みがあるんだ。俺が消えて、この記憶をアッシュが見ることになったら)
一年に一度だけでいい。
ミュウと一緒に過ごしてやって欲しいんだ。
ルークは頭の中で、手紙を思い描く。
アッシュへと宛てた手紙を。
(ミュウのことだから、こいつ、本当にバカだから)
きっと自分が『消えた』日を、忘れないと思うのだ。
そして、その日が来るたびに泣くだろうと、思うのだ。
だから、アッシュ、とルークは手紙を綴っていく。
俺が『消えた』日だけでいいから、ミュウと一緒にいてくれないだろうか、と。
ミュウの涙に、ミュウのとりとめのない思い出話に、付き合ってやってくれないだろうか、と。
うざいだろうとは思うけど、頼むよ、とルークは手紙の最後に記した。
大切に大切に、頭の中にその手紙をしまいこむ。
この手紙に気づいて、開いてしまったら、無愛想ながらも、優しいアッシュのことだ。
面倒だと言いながらも、最後の自分の願いをきっと叶えてくれるだろう。
(ごめんな、ミュウ)
俺がお前に残してやれるのは、こんなものだけだ。
ごめんな、側にいてやれなくて。
ごめんな。
「ミュウ、俺はさ」
「何ですの?」
「お前に会えて心底よかったって、思うよ」
「ミュウもですの!」
嬉しそうに鳴くミュウの耳を擽りながら、ルークはありがとな、と目を細めて笑った。
翡翠の目の端には、眩しさによるものか、あるいは、それ以外によるものか、じわりと微かな涙が滲んでいた。
END