月齢
女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。
スレルクアリ。
「導師ルーク」ネタの設定を使ってます。
ルークが導師になる過程などは、ネタの設定です。
アリエッタとの出会いやアリエッタとのその後がこの話では違ってます。
名前だけですが、アニスが優秀な導師守護役になってます。
また、名前は出してませんが、ティアに厳しめ。
微カニバリズム的表現あり。
注!ティアに厳しめ
あーん、と口を開け、アリエッタはルークが差し出した銀のスプーンを、口に入れた。
スプーンの上には、キラキラとした七色のゼリーが乗っている。その正体をアリエッタは知っていたけれど、躊躇いはなかった。
ルークが与えてくれるものならば、そこに間違いはない。
何しろ、ルークには、母である誇り高きライガクイーンが、絶対の信頼を寄せているからだ。
(人の姿、をした、ローレライの愛児(まな)だって、ママ、言ってた)
そんな存在に、自分は愛されている、らしい。
どうして、とアリエッタは思う。どうして、ルークは、自分のことを、好きだと言うのだろう。
愛してるよ、アリエッタ、と笑うのだろう。
考えても、アリエッタにはわからない。ルークは、アリエッタがアリエッタだからだよ、と可笑しそうに笑うだけで、ちゃんと答えてくれたことはない。
でも、いい、とアリエッタはこくん、と喉を鳴らして、ゼリーを飲み込んだ。
ルークに愛されている。その事実だけで、十分だ。
理由なんて、なくたっていい。ルークが笑ってくれている。それだけで、いい。
だって、アリエッタはルークが大好きで、仕方ないから。
飲み込んだゼリーが、つるりと喉を流れ、身体に染みこんでいく。
アリエッタを構成する音素が、ゆっくりと組み変わっていく。
七色のゼリーは、第七音素で出来ていた。ルークが、森に湧いている澄んだ水に、ぽたりと血を落として作ったのだ。
赤く染まっただけの水であるはずなのに、不思議なことに、ルークがスプーンで掬うと、それは、固まるのだ。ふるふる、震えるゼリーとして。
ルークがやって来るたびに、アリエッタは、甘い甘い、それを口にしていた。
「美味しい?アリエッタ」
こくん、と頷き、ルークを見上げる。よかった、と微笑み、翡翠の目を細めるルークに、アリエッタの鼓動が高鳴る。
綺麗な綺麗な、ルーク。朱色の髪が、さらさらと揺れている。
ルークが纏う第七音素の煌きが、柔らかにアリエッタとルークを包んだ。さやさやと風が吹き、葉が擦れ合う。
どこかで梟が鳴き、羽ばたく音がした。
「アリエッタ、いつ、ルークと一緒に行けるですか?」
緋色の目を瞬かせ、アリエッタは首を傾ぐ。
母のもとを離れるのは、怖い。けれど、ルークと一緒にいたい気持ちは、日増しに強くなっていく。
ルークが、いつもここにいてくれればいいのに、とアリエッタは不満に口を尖らせる。そうすれば、母と兄弟たちとルークと、いつまでも一緒に幸せに暮らしていけるのに、と。
だが、ルークは長くはここにいない。夜、時折、ひっそりとやってきては、朝日が昇る前に帰っていく。
仕事があるのだと、ルークは言った。とてもとても大事な仕事で、自分にしか出来ない仕事なのだと。
ローレライ教団の導師という仕事は、ローレライに愛され、その力を持ったルークにしか出来ないことなのだと。
「もうすぐだよ、アリエッタ。空の月が満ちたら、一緒に行こう」
ルークが指差す天を見上げ、アリエッタは目を細める。
暗い空に浮かんでいるのは、銀色に輝く三日月だ。あの月が満ちたら、ルークと一緒にいられるのだ。
そう思うと、わくわくした。
心が高鳴るのが、止められない。
アリエッタの白い頬は、喜びに紅潮した。
(それまで、ガマン、するです)
もっとずっと一緒にいてほしかったけれど、アリエッタは言葉を無理矢理、飲み込んだ。
ルークに我が侭な子だとは、思われたくない。
ルークに嫌われたくはない。
大好きな、大好きなルークにだけは。
「もうすぐだよ、アリエッタ」
ルークがもう一度、繰り返し、アリエッタの額にキスを落とした。擽ったくて、アリエッタはきゃあ、と笑う。
細い腕を伸ばし、ルークにぎゅ、と抱きつけば、ルークが優しく、温かく、抱き返してくれた。
「さぁ、今日も歌おうか。この間、教えてあげた歌は、覚えてる?」
「もちろん、です!」
リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ
ルークが以前、教えてくれたとおりに、歌を奏でる。
可憐な歌声が、闇夜に柔らかく響き、ルークの翡翠の目がうっそりと細められた。ルークの唇に笑みが滲んでいることが嬉しくなって、アリエッタは今まで、教わった歌をすべて歌っていく。
すれば、ふわ、と音素たちが、アリエッタとルークの周りに集った。第一から第四までの音素が、きらきらと煌きながら、舞っている。
ルークの朱色の髪も輝きを増し、アリエッタの桃色の髪を優しく、その手が梳いた。
「素晴らしいよ、アリエッタ!ああ、やっぱり、俺はアリエッタがいいな。あんな女じゃなくて」
「…女?」
ぴく、とアリエッタの眉が跳ねた。ルークの眉間には皺が寄り、その女とやらを、嫌悪しているのが見て取れる。
アリエッタは、ルークの腕を掴む手に力を込め、誰のことですか、と問いかけた。
アリエッタの歌声に耳を澄ませていたライガクイーンも、耳を震わせ、顔を上げている。
ルークが苦々しそうに顔をしかめ、深いため息を吐いた。
「ユリア・ジュエの直系の子孫でね。俺の花嫁にって、推してくる連中がいるんだ。子を生す相手としては、最適な相手でしょう、って」
「…はな、よめ」
ぶるっ、とアリエッタの小柄な体躯が震える。花嫁、ルークの花嫁。それは、ルークの番いとなる人のこと。
イヤだ、とアリエッタは首を振った。ルークと一緒にいるのは、自分だ。
ルークが自分ではない誰かと、番いになるなんて、絶対にイヤだ。
ライガクイーンもぐるる、と喉を鳴らしている。そんな結婚は認めないと、言っている。
ルークが苦笑し、俺だって冗談じゃないよ、と首を振った。
「口調こそ丁寧だけど、実際は導師である俺を、その実、馬鹿にしてるとしか思えねぇし。あくまで候補でしかないのに、既に、導師の妻気取りなんだろうな、あれは。周りが何、吹き込んだのか知らねぇけど、他の候補を目下に見てるわ、自分は俺と対等だと思い込んで、意見してくるわ…。その上、導師となる前は、キムラスカの貴族だったと知ったとたん、『だから、そんなに偉そうなのね』と、こうだったし。呆気に取られたなぁ、あれは。導師守護役にアニスってのがいるんだけどな。誰が勧めてきても、アレだけはないですよ、アレだけは、って思いっきり、首、振ってたからな…」
アレに様付けして呼ばなくちゃいけなくなるなら、今すぐ、辞表出しますからね、とまで言われたよ、と嘆息し、肩を落とすルークの頭に、アリエッタは手を伸ばした。
ルークの表情、口調からも、その女がいかにイヤな女であるのかが、伝わってくる。
ありがとう、アリエッタとルークが微笑み、アリエッタを抱き寄せた。
「そんな人、イヤだって、言えないですか?」
「んー…。仮にも、ユリアの直系の子孫だからな。何も知らない信徒たちからすれば、最良の相手に見えてるんだよ。彼らの期待を裏切ることはしたくない」
「ルーク、優しすぎ、です」
「そんなことはないよ、アリエッタ。…だから、こうして、アリエッタに花嫁になってもらおうとしてるしな」
きょとん、とアリエッタは瞬いた。にっこりと笑うルークの顔は、優しい。
ライガクイーンも、何も言わない。ただ静かに、ルークを見つめている。
優しくアリエッタの頭を撫でながら、ルークは続けた。
「アリエッタには、『聖女』に、そう、『現代のユリア』になってもらいたいんだ」
「アリエッタに、ですか?でも、なれるですか…?」
「なれるよ。アリエッタの身体の音素は、俺の血でゆっくり変質して、第七音素師にどんどん近づいているからな。もう少しすれば、ユリアのように惑星預言だって、詠めるようになる。それほどの第七音素師に」
くつくつと、喉を鳴らすルークを、アリエッタは稚い目で見上げる。
ルークの手は、変わらず、優しい。ママは、相変わらず、何も言わない。
アリエッタは自分の薄い腹を撫でた。ルークの血で出来たゼリーを飲み込んだ、この身体。
この身体の、どこがどう変わったのか、自分にはわからない。
ルークから、歌の他にも、世界のことを教わっているから、第七音素師に何が出来るかは知っている。治癒術なんかも覚えたら使えるようになるのだろうか、今の自分ならば。
(…何でも、いいです)
何がどうあっても、かまわない。
ルークは、自分に花嫁になってもらいたいと言った。
それは、素敵なことだ。嬉しいことだ。
ルークとなら、番いになりたい。ルークの番いには、アリエッタがなりたい。
その『イヤな女』には、ルークを渡したくない。
「譜歌も、全部、アリエッタに教えてあげるから」
「ふか?」
「歌だよ、アリエッタ。そして、その譜歌をみんなの前で歌うんだ。すべての音素集合体たちが、アリエッタを祝福するだろう。もちろん、ローレライも」
そのときこそ、アリエッタが俺の花嫁と認められる、そのときだ。
嬉しそうに、ルークが笑う。夢見るように細められた翡翠の目は綺麗で、アリエッタは見惚れる。
ルーク、大好き、とアリエッタはルークの頬に唇を押し付けた。ルークが笑みを深め、俺もだよ、とアリエッタの頬にお返しのキスが降ってくる。
「アリエッタだけが、俺の花嫁だ」
「はい、です!」
華やかな笑みを浮かべ、アリエッタも笑う。
ライガクイーンが、どうか娘に祝福あれ、と歌うように、鳴いた。
END