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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2009.03.20
10万HIT企画

カーマインバレット二話目。→一話目
今回は時間が進んでます。
ガイに捏造が入ってます。ルーク(原作アッシュ)の立派な護衛兼従者です。
あと女性恐怖症ではありますが、女性と思わない相手(犯罪者等)には近づけます。手も上げられます。
ルーク・シュルツ(原作ルーク)のシスコンっぷりがあがってます…。

注!同行者厳しめ(特にティア&ジェイド)






カバーでごまかしてはいるものの、だいぶくたびれてきたソファに腰掛け、ルーク・シュルツは両腕を広げた。きゃあ、と歓声をあげ、フリージアがその腕の中に飛び込む。
幼い妹の身体を抱き上げ、腿に乗せ、シュルツは自身もまた満面の笑みを零した。
お兄ちゃん、大好き、とフリージアのふっくらとした唇がシュルツの頬にチュ、と当たる。お兄ちゃんもフリージアが大好きだ、とお返しにキスを返せば、フリージアがいっそう華やいだ笑い声を上げた。

「…なぁ、ルーク兄ちゃん」
「ん、何だ、ルーン」
「もし、フリージアが彼氏、連れてきたらどうする?しかも、結婚するんだー、とか言ってさ」
「フリージアはルークお兄ちゃんのお嫁さんになるんだよ、ルーンお兄ちゃん」

兄よりも先に、藍色の大きな目を瞬かせ、フリージアが答える。だよなー、とシュルツは目尻を下げ、笑みを深めた。うんっ、とフリージアが力強く頷く。
三男の顔に、うんざりとした表情が浮かぶ。その背後で次男が余計なことを聞くから、とため息交じりに首を振った。

「んー、でも、本当にそんな日が来たら」
「来たら?」

首を傾ぐルーンに、にっこりと長男が微笑む。
それは綺麗な笑みに、ルーンの頬がひくっと引き攣った。

「叩きのめす」

俺より弱い奴になんて、可愛い妹をやれるかよ。
当然のように言い放った兄と、兄のそんな言葉に歓喜している妹に、その場にいた弟二人は言葉を失う。二人はちらりと視線を交わし、まだ見ぬ未来の妹の婿候補に憐れみを込めて合掌した。
もっとも、二人ともその婿候補の味方をするつもりがないあたり、兄ばかりも責められない。

「ルーク兄ちゃん!」

パタパタと駆け込んでくる足音がしたかと思うと、ガチャッ、と開いた玄関に、シュルツが首を傾げ、妹を抱いたまま、足を向けた。
どうした、と部屋から顔を覗かせれば、仕事!と叫ぶ、四男ラズの、額に汗が吹き出た顔。家まで走ってきたらしい。

「仕事…?」
「うん、ギルドの親方が、お客さんがご指名だから、呼んでこいって!」
「俺を指名?親父じゃなくて?」
「うん。ルーク兄ちゃんを呼んで来いって」
「…俺を、ねぇ」

本当に何の自慢にもならないが、ルーク・シュルツの名はまだまだ売れていない。
シュルツの名自体は、知られている。シュタット・シュルツ。ルークたちの父親の名として。
ルークたちの父は四十路を越えた今もあちこちから引っ張りだこの凄腕の傭兵だ。が、仕事を選り好みするため、名が売れている割には、未だに貧乏暮らしをシュルツ一家は続けている。

だが、家族がそれに不満を零したことはない。シュタットが仕事を選んでいるのは、家族と過ごす時間を作るためだと知っているからだ。
何よりも家族を重んじ、愛してくれている。それを知っているから、誰も文句を言わない。
母親とのいつまで新婚気分なんだ、と思わず、突っ込まずにはいられない姿を見せられると、何も言えなくなるというのも本音だが。

「ルークお兄ちゃん、お仕事行っちゃうの?」
「親方が呼んでるんじゃな、行かないわけにもいかないだろ。ごめんな、フリージア」
「…遠くに出かけるんなら、ちゃんとフリージアにキスしてから行ってね」
「ん、もちろん。当たり前だろ」

切なそうに眉を顰めながらも、我が侭も言わずに、ストン、と膝から降りた妹の頭をくしゃりと撫で、シュルツはテーブルに置いておいた譜業銃を腰のホルスターに収めると、家を出て行った。





ギルドの事務所の扉を開けたシュルツは、思わず、そのまま、扉を閉めかけた。待て待て!とギルドの親方から呼び止められなければ、間違いなく、閉めていた。
事務所で腕を組み、仁王立ちにしている犯罪者を見れば、当然の反応だ。自分は何も悪くない、とシュルツは盛大に顔を顰め、事務所に入った。

「どうしてあなたが…ッ」

親方よりも先に口を開いた女が、シュルツへと突っかかってくる。キムラスカで捕まったんじゃないのか、と疑問には思ったが、シュルツはティアを素通りし、親方へと近寄った。
ティアが激昂し、詰め寄ってくる。が、その前に、パシンッ、と頬を叩く音が事務所に響いた。

「いい加減にしろ、ティア・グランツ。ルーク様の許しもなく口を開くな、と何度も言ったはずだが、まだ理解できないのか?その頭に詰まっているのは、おがくずらしいな」

辛らつな言葉をティアへと叩きつける男へと、シュルツは視線を移した。
金色の前髪の奥で、青い瞳が怒りに燃えている。この男が何者かということも気になったが、それ以上に男が発した名前に、シュルツは注意を引かれた。

「ルーク様…?」

自分と同じファーストネーム。まさか、と事務所を見回したシュルツの目が、フードを被った人影に止まった。体つきから察するに、男のようだ。
どこか躊躇うように、その青年はシュルツを見つめている。もっとも、顔はフードに隠れて見えない。
それでも、その青年が誰か、シュルツが違えることはなかった。

「ルーク様、なんですね?」

穏やかな笑みを、青年へとシュルツは向けた。青年の肩から力が抜け、ホッと息を吐くのが聞こえる。
どうやら忘れられていたらどうしようかと、不安に思っていたらしい。
そんなわけないのに、と内心、苦笑いながら、シュルツは青年の前に膝を着いた。

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「…お前も元気そうでよかった」

ルークの声に滲む歓喜の色に、シュルツの笑みは深まる。覚えていてくださって、嬉しいです、と胸のうちの喜びを素直に笑みに乗せれば、ルークが小さく息を呑み、照れくさそうに咳払いをして、頷いた。
忘れるわけがない、と嬉しいことをルークが呟いた。

「本当に知り合いだったのか、ジュニア」
「ジュニアって言うな!…で、仕事ってのは?」
「見当ついてるんだろ、ジュニア」
「だから、ジュニアって言うなって…あー、もう…。…俺を名指ししたのは、ルーク様ですか」
「ああ。…力になると、言っただろう」

言いましたけども、と出そうになるため息を噛み殺し、シュルツはそっと事務所に佇む者たちを順に窺う。
まず、あの犯罪者が何故いるのか。これは後で、ルークの従者らしい、あの金髪の青年にでも訊ねればいい。
他にも気になるのは、この事務所に入って来てからというもの、興味深そうに、けれど、どこか恐れるように自分を観察している男だ。マルクト軍服に特徴的な赤い目。自分の記憶に間違いがなければ、あれは死霊使いと敵味方ともに畏怖されている、ジェイド・カーティスだ。
何故、そんな男がキムラスカの第三王位継承者と行動をともにしているのだろう。

(そういえば…ジェイド・カーティスといえば、噂が流れてたな)
確か、タルタロスで漆黒の翼を追い、ローテルロー橋を破壊された──という噂だ。漆黒の翼も傍迷惑なことをしてくれたものだが、橋を破壊されるに至ったマルクト軍も大概、間が抜けている。
他にも、神託の盾騎士団に襲撃された上、タルタロスを奪われたという噂もある。さすがにそんな事態が起こっていれば、マルクトとダアトの間で戦争が起こってるだろ、と半信半疑で受け止めているシュルツは、まだそれが事実だとは知らない。

「貴方は何者ですか」
「…俺はルーク・シュルツ。ここ、ケセドニアで傭兵をやってるものですよ。──死霊使い殿」
「おや、私をご存知とは」
「マルクトの死霊使い、ジェイド・カーティス大佐といえば、有名ですから」

戦場で死体を漁っていただの、漁った死体で実験をしているだの、ろくでもない噂ばかりだが、戦争でジェイド・カーティスが上げた功績は侮れない。現皇帝の懐刀とも名高い男だ。甘く見るのは危険だろう、と不躾な視線に苛立ちを覚えながらも、シュルツはにこやかな笑みをジェイドへと向ける。
視界の隅で、金髪の男が何やら複雑そうな顔をしているのが映りこみ、内心、はて、と首を傾いだものの、その笑みは崩れない。
が、ジェイドがルークへと向けた台詞に、その笑みはすぐに引き攣った。

「で、ルーク。一体、彼を雇ってどうしようというんです?傭兵が一人増えたところで、足手纏いというものですし…。ああ、話相手を求めてのことですか?やれやれ、つくづく、貴方は今回の任務を理解してらっしゃらないんですねぇ」

頬が引き攣ったのは、シュルツだけではない。ギルドの親方もまた血の気の引いた顔を引き攣らせている。親方は、ルークが今だ顔を隠しているとはいえ、正体に見当はつけているはずだから、当然の反応だな、とシュルツはまたため息を噛み殺す。
貴族に対する軍人の対応として、間違いなく、不適格の印が押されるはずの態度を、堂々と取るこの男の頭の中はどうなっているのだろう。天才と聞いていたのだが、何かの間違いだったのだろうか。
金髪の青年に至っては、こめかみに青筋が浮いている。シュルツの中で、ジェイド・カーティスに対する評価がガクン、と下がった。
指揮官としての能力はともかく、外交能力は皆無らしい。

「…カーティス大佐、貴殿は封印術を掛けられて、万全ではないはずだが?何しろ、俺にまで前線に立て、と軍人の風上にもおけぬ台詞を吐いたくらいだ、戦闘に不安があるのだろう?ここまでの道中もガイがいなければ、どうなっていたことか」

怒りと皮肉が入り混じったルークの台詞に、シュルツはいっそ耳を塞ぎたくなった。頭を抱えて、しゃがみこみたい。ありえない。いろいろと、ありえない。親方に至っては、明後日の方向を見つめ、いい天気だ、などと呟いている。一人で現実逃避するなんて、ずるい。

ともにいるくらいなのだから、ルークの正体は知っているはずだ。にもかかわらず、戦わせようとするとは。マルクトはキムラスカと戦争でも起こす気なのだろうか。二国の間で本格的な戦争が起これば、貿易で成り立っているケセドニアの被害は大きい。冗談ではない。

ティアが剣を持っているのだから戦うのは当たり前でしょう!といかに己が愚か者であるかを披露している。
首跳ねてもいいんじゃないかな、とシュルツは物騒なことを思った。どうやらガイという名前らしい青年も同じ意見らしく、目が合うと疲れきった顔で苦笑が返ってきた。

「…とにかく、親善大使は俺だ。命令を下すのも、俺だ。シュルツは俺の護衛として雇う」

いいか、とシュルツへと首を傾げるルークの声音は、不安の色が滲んでいる。ああ、と内心、嘆息する。
正直な話、どう考えても面倒しか待っていないこんな依頼は、自分の手には余る。余るが──ルークを見捨てられない。非常識な人間には、もう関わりたくなかったのに。
アンスルやルーンにも何度となく言われてきたが、つくづく自分は損な性格をしている。

「…俺で、よければ」

ほぅ、と安心したように息を吐いたルークに、シュルツは、やはりルークを見捨てることは出来ないと、半ば諦めたように項垂れた。





カチャカチャとトレイの上で陶器のカップとソーサーを触れ合わせ、真剣な顔でフリージアが紅茶を運んでくる。客人用の高い葉で淹れた紅茶は、豊かな香りを湯気とともに立ち昇らせている。
が、息を殺して妹を見守るシュルツには、そんな香りは二の次だった。
拳を握り締め、テーブルへとフリージアが辿り着くのを、応援しながら見守る。本音を言えば、自分で運びたかったが、可愛い可愛いフリージアが、ルークお兄ちゃんの大事なお客さまなら、フリージアがやるの!と言ってきかなかったのだ。
だって、大好きなお兄ちゃんのためだもん、と言われてしまえば、自他ともにシスコンと認めるシュルツが折れないわけがない。弟たちが揃ってため息を吐く中、慎重な手つきでトレイはテーブルへと乗せられた。
シュルツに呑まれ、同じく息を殺してフリージアを見守っていた、ルークとガイが、息を吐いた。少しばかり紅茶が冷めてしまったのはご愛嬌だ。

「えへへ、頑張ったよ、お兄ちゃん!」
「ああ、えらいぞ、フリージア!」

ぎゅう、と妹を抱きしめ、ご褒美と言わんばかりに、シュルツがチュッ、と妹のまろい頬へとキスを落とした。嬉しそうにフリージアが笑い声を上げ、シュルツの首にキュ、と抱きつく。
呆気に取られる客人二人に、そっと近寄ったアンスルが、愚兄がすみません、と囁くように謝罪した。

「いつものことなので、この家に滞在なされるなら、慣れてください」
「あ、ああ」
「はは…」

ルークとガイの二人が顔を引き攣らせながらも頷いたところで、ルークはフリージアを床に下ろし、頭を撫でた。
アンスルにちら、と目配せし、興味深そうに入り口から顔を覗かせている弟たちと妹を託す。アンスルがこくりと頷き、フリージアの手を取った。

「ルーク兄さんは仕事の話があるから、行くよ、フリージア」
「うん。…紅茶、冷めないうちに飲んでね、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとう、フリージア。アンスルも」

ほら、行くぞ、と弟二人も叱り飛ばし、アンスルがパタン、と扉を閉じた。足音が遠ざかり、気配も遠ざかっていく。
弟妹たちは兄や父が聞くな、と言った話は、決して聞かない。どれほど興味があろうとも、兄や父が自分たちを守るためにそう厳命していることを理解しているからだ。

シュルツはティーカップを手に取り、誰よりも真っ先に口をつけた。毒など入っていないと示すためだ。もっとも、特定のカップに毒を仕込む機会は幾らでもあったため、信じるか信じないかは、ルークたち次第だが。だから、シュルツはあえて何も言わない。
ルークがそんなシュルツを見つめ、躊躇うことなくティーカップを手に取り、一口啜った。ガイが一瞬、止めるような動きを見せたものの、結局、何も言わなかった。
ルークが自分を信じてくれていることはわかっていたが、ガイもまた、主人の態度を見、自分を信じてくれることにしたらしい。にっこりと、シュルツは屈託のない笑みを浮かべた。

「さてと。それじゃ、話を聞きましょうか。ああ、俺が知らなくていいことなら、もちろん話さなくていいですよ」
「知らないままでも構わないというのか」
「ええ。シュルツ家の家訓はね、依頼人を信頼できるかどうか。それだけを考えろってものなんで」

仕事内容や給金よりも、まず、依頼人が信頼できる人間かどうか。それを見極めろ、と幼いころから、ルーク・シュルツは父に言われてきた。
信頼できる依頼人のためならば、それがどんな任務であろうと、命を張れる。たとえ、汚い仕事であっても、胸を張って、家族に顔向けできる。そう教えられてきた。

「ルーク様、俺は貴方を信じてます」
「……」
「貴方を守りたいと思う、俺の心を信じてる」

だから、すべて話さなくてもいい、とシュルツは笑う。ルークは、第三王位継承者という立場であり、ギルドで概要を聞いたところに寄れば、和平の親善大使の任に就いているという。
なれば、今はキムラスカを離れている上、しがない傭兵でしかない自分には、話せぬこともあるだろう。話してはならぬこともあるだろう。
けれど、それを心苦しく思うことはないのだと、シュルツは手を伸ばし、ルークのフードをぱさりと下ろした。露わになった、自分とよく似た顔に浮かぶ苦々しさに、苦笑する。

「俺はお前の信頼に値する人間なんだろうか」
「それを言うなら、俺の台詞ですよ。まだまだひよっこ呼ばわりされてる俺で、いいんですか、本当に。ガイさんだって、年下の俺なんぞじゃ、頼りないんじゃないですか」
「ガイでいいよ。あと、俺には敬語なんて使わなくていいからさ。…君の強さなら、ルーク様から聞いてる。それに…ルーク様が信頼している人間なら、俺も信頼するよ」

ガイが迷いのない顔で、頷く。ああ、この人なんだな、とシュルツはふと思った。この人が、ルークが言っていた、兄のような人だ。ルークが闇に落ちきらずに済んだ、ルークを繋ぎとめた人。
悲しみを青い瞳に潜めた、優しい眼差しのガイに、シュルツは頷き返した。

「ありがとう、ガイ。これから、よろしく」
「ああ、こちらこそ、よろしく。君がいてくれると、俺の心労も少しは減りそうだ」

苦笑するガイに、ああ、と思わず、乾いた笑いがシュルツの口から零れる。
頭を過ぎるのは、非常識極まりない、あの犯罪者と死霊使い。彼らの宿泊先は、ケセドニアの宿屋だ。
ルークとガイだけ、詳しい依頼内容を聞くためと護衛のためだ、と彼らを押し切り、シュルツの家にとやって来たのだ。
いなくて清清するわ、と言わんばかりのティアの顔と、これだから我が侭なお坊ちゃまは、と肩を竦めていたジェイドの顔を思い出したシュルツの眉間に皺が寄った。

「なんつーか…ここまで、ほんっっとお疲れさん」
「ああ、本当に…。どうにか導師にはお帰り願えたからよかったけど、あの導師殿と導師守護役までいたら…うう、考えたくもない」
「導師って導師イオンか。身体弱いとか聞いてたんだけど…アクゼリュスまで、まさかついて来ようとしてたのか?」
「和平の仲介という仕事は終わったから、丁重にダアトに帰ってもらったんだ。…最後まで連れて行ってください、と駄々を捏ねていたが」

揃ってため息を零す主従に、うわぁ、とシュルツは同情の呻きを発する。よくぞここまで非常識人ばかりが揃ったものだ。自分だったら、裸足で逃げ出している。
ルークの場合、逃げ出そうにも逃げ出せなかっただろうが。

「他にも、なぁ」
「まだ、何かあんのか?」
「ガイ、キムラスカの恥をわざわざ晒すな」

キムラスカの恥というからには、おそらく、上層部の人間、もしかしたら、王族が関わっているんだろうな、と思いつつ、シュルツは訊ねなかった。必要のないことまで知ることはない。ルークも知られたくないと思っているのなら、なおのこと。
ごほん、とルークが咳払いをし、シュルツに向き直った。

「アクゼリュスのことは、何か聞いているか?」
「ああ、瘴気が噴出して、マルクト側から近づけないとか聞いてますが」
「そのとおりだ。そのこともあって、マルクト側から和平の申し出があってな。親書には、キムラスカ側の街道から、アクゼリュスの民を救って欲しいとあった。キムラスカは和平の証として、その要請を受けることにし、俺を派遣したんだ」
「…救うって、この人数で?」

何の冗談だ、とシュルツは目を瞠る。そもそも、この人数でここまで辿り着けたこと自体、奇跡に近い。
ただの旅人というならわかるが、ルークたちは和平の親善大使一行だ。キムラスカとマルクトの間に和平が為ることを疎ましく思っている人間は少なくない。和平の邪魔をしようと、刺客が送られることは、必至。
実際、それらしい者たちも混じっていたと、ガイが言った。

「ファブレ家にはお抱えの騎士団があるんじゃなかったっけ」
「それが、ただの一人も寄越してもらえなくてな…。ジェイドも少数精鋭のほうが目立たなくていい、だなんて言いやがるし」
「……少数精鋭って、それ、死霊使いの頭の中には、ルーク様も戦闘要員として入ってるみたいだったけど」
「間違いなく、入ってるよ」

うわ、ありえねぇ、とシュルツは天を仰いだ。ルークが心得ている剣術が、実戦向きとはとても言えないことくらい、軍人ならば、すぐに見抜いて当然のはずだ。
マルクトの軍人教育ってどうなってんだろ、と呻く。ガイが神託の盾騎士団の教育もありえないけどな、と言い添えた。

「ああ、それそれ。何であの女も一緒なんだ?とっくに死刑になってるもんだと思ってたのに」

少なくとも、投獄されているものだと思っていた。なのに、あの女な自由だった。拘束されてすらいない。
それどころか、ルークに対して、相変わらず、敬意を払うということをしていなかった。
ガイが苦々しげに顔をしかめ、ルークが深いため息を零した。

「大詠師モースが無理矢理、ティア・グランツを今回のメンバーに加えたんだ。名目上は、罪の償いとして、俺の護衛をするように、と」

モースの名に、シュルツの眉間に深い皺が寄る。ケセドニアでのモースの評判は悪い。
ケセドニアは、ダアトの加護を受けた自治区である。それを笠に着て、何かと商人たちに無茶を通すことが多いのだ。
実際、シュルツの知り合いの商人にも、泣き寝入りさせられたものは少なくない。

「でも、何でモースが口を出したんです?あの女、モースの愛人なんですか?」

性格はともかく、容貌は確かに悪くない。軍人らしからぬあの身体つきも、大詠師が側に侍らせておくために雇っているのだとすれば、納得がいく。
けれど、シュルツのそんな疑問に、ルークが首を振った。

「ユリア・ジュエの子孫だから、だそうだ。ユリアの子孫を死刑にするのは、ローレライ教団の体面に関わるからと王に訴えたんだ」
「ユリア・ジュエの子孫って…あれがですか。二千年の間に聖女の子孫も落ちたもんだなぁ。それでも、よくインゴベルト王も許可を出しましたね。第三王位継承者を誘拐した犯罪者を生かしておくなんて、今度はキムラスカの体面に関わるでしょうに」

そこまで言って、シュルツは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。見れば、ルークやガイも、同じように顔を顰めている。
ガイに至っては、今にもインゴベルトたちに対して、毒を吐きそうな剣呑な顔つきだ。

「裏があるって、ことですか。…まあ、そうじゃなきゃ、言っちゃ悪いですけど、こんな貧相な親善大使一行なんてありえませんしね」
「ああ、まったくだ。これじゃ──ルーク様に死んで来いって言ってるようなもんじゃないか」

沈黙が、居間に落ちた。三人、黙り込み、それぞれの考えにふけるように視線を落とす。
ティーカップに指を掛け、シュルツは一口、啜った。砂糖もミルクも入れていない紅茶の香りが、そのまま口の中に広がる。
内心、深いため息を零す。キムラスカが救いようのない国であることは、スラム街にいたころから知っているが、今も腐り続けているのかと思うと、呆れて物も言えない。

(キムラスカの狙いは…ルーク様の死、そのものか?)
アクゼリュスは以前はどうであれ、現在はマルクト領だ。そのアクゼリュスで、いや、たとえ、アクゼリュスに辿り着かなかったとしても、キムラスカ領を越え、マルクト領に入ってから、ルークが死んだ場合、それはマルクトの責任となる。
ルークにつけられた護衛がいかに使えない者たちばかりだとしても、それがわかっていながら、護衛を増やさないマルクトも責任は逃れられない。マルクトの名代として側にいるカーティスの怠慢だと責められるのは必至だ。
そして、キムラスカはマルクトと戦争を起こす理由を手に入れることになる。何しろ、第三王位継承者がマルクト領で死ぬのだ。立派な戦争理由の出来上がりだ。

(でもなぁ…)
本当にそれだけだろうかと、シュルツは首を捻る。気になるのは、預言のことだ。キムラスカは預言を重視している国。今回のことにも、預言が絡んでいる可能性は高い。
預言至上主義の大詠師モースがキムラスカに入り込んでいることも気になる。
うーん、と腕を組み、シュルツは唸った。もっとこの頭がよかったら、と勉強をサボってきた過去を悔いる。

「…ガイ、シュルツ」

酷く暗い声で呼ばれ、シュルツはガイとともに、ルークへと訝しげな視線を向けた。額に掛かる紅い髪の奥、翡翠の目が陰りを帯びている。
ちら、とガイと目を合わせ、はい、とシュルツは応えた。

「これから言うことは、他言無用に頼む。…これから話す預言が本物なら、秘預言に当たるからだ」

秘預言。その言葉に、シュルツとガイは息を呑む。
国家機密に相当するその預言を口にすれば、首が飛んだとしてもおかしくはない。それは、ルークとて、例外ではない。
それだけ、ルークは自分たちを信用してくれているのだ。それを裏切るような真似は、シュルツには出来ない。ガイも同じらしく、迷いのない目で頷いていた。

「…俺にその預言のことを話したのは、ヴァン・グランツ。ローレライ教団の謡将だ」
「グランツ…?」
「ああ、あの女の兄でもある。つまり、ユリアの子孫でもあるということだ。俺がまだ幼いころから、そのヴァンが、俺に何度となく、囁いてきたことがあってな。──俺が『鉱山の街』でキムラスカの繁栄のため、ローレライの力を使って、街とともに消滅する、という預言だ」

シュルツは言葉を失った。ガイが、血の気の引いた顔で、唇を戦慄かせている。
ルークが表情のない顔で、話を続けた。
テーブルの紅茶はすっかり冷め、もう湯気も立ち昇らない。色も、褪せていく。

「ローレライの力というのは、俺が生まれつき持っている特殊な力のことだと思う。超振動、と呼ばれるらしい。覚えているか、シュルツ?あの女が擬似超振動が、と口にしていたこと。普通ならば、第七音素師二人が共鳴し、起こる現象なんだが、それを俺は単独で起こせるんだ。全開で使ったことはないが…街を消滅させるくらいだ。相当なもの、なんだろうな」
「…それが、ルーク様が幼いころからベルケンドでさせられていた実験の理由、ですか」

ガイの掠れる声に、こくん、と頷くルークに、シュルツは首を傾ぐ。シュルツに答えたのは、ガイだった。
その目に宿る憎悪と怒りの色に、思わず、シュルツの眉が跳ね上がった

「内容までは、俺も知らない。ルーク様は決して言わなかったからな。だが…ベルケンドから帰ってきた後のルーク様は、いつでも表情を失くしていた。あちこちに傷もあった。針を刺して、コードを繋いだような、そんな傷が。何か薬を打たれていたこともある」
「……」
「キムラスカはつくづく最低の国だよ、本当に…ッ」

深い、燃え滾るような憎悪を、ガイの声にシュルツは感じ取る。ガイがキムラスカを憎むのは、ルークのことだけではないのかもしれない。
だが、ガイがルークへと注ぐ情は本物だ。そこに偽りはない。ならば、ガイの傷を抉るような真似はすまい、とシュルツは何も言わず、頷いた。

「だから…ヴァンの思惑はどうであれ、その預言が事実だとすれば、俺は本当にアクゼリュスへと死ぬために送られた、ということだ。キムラスカの繁栄のために」
「…ッ」
「…俺は、王族、だからな。国の繁栄のためなら、仕方ないとも思ってた。だけど…」

俺が死んだあと、何が起こると思う。
ルークがシュルツへと問いかけた。答えは、決まっていた。

「戦争が起こるでしょうね。キムラスカとマルクトの間に。ルーク様の死を理由として」
「俺もそう思う。繁栄が詠まれているなら、キムラスカの勝利が詠まれているんだろうがな。……俺は」
「ルーク様?」
「…俺は、本音を言えば、……どうでもいい、と思ってた。死ねと望まれてるなら、それに従えばいい、と。それは楽なこと、だから。王族だから、なんて…すまない、ただの、言い訳だな」

ルークの唇に、自嘲が滲む。昏い暗い、哀しい笑み。
ガイが喉奥で呻く。シュルツは奈落のように深い闇を湛える翡翠を見つめた。

「でも、今は、違うんでしょう?そうじゃなきゃ、俺を雇う理由がない。俺を雇うのは…生きたいからだ、違いますか」
「ああ、そうだ。俺は、気づいて、しまったから。シュルツ、お前とお前の家族を見て、戦争が起こったら、あんな平和な光景も壊れてしまうんだと、気づいたから。嫌だと思った。俺が死んだせいで、誰かの平穏が壊れてしまうなんて、嫌だと思った。ガイだって剣の腕が立つから、戦場に駆り出されて死んでしまうかもしれないと思った。…俺は、そんなのは嫌だ。嫌なんだ」

だから、死ねない、とルークが唸るように叫ぶ。泣き出しそうな声で、鳴く。
シュルツは、哀しかった。ルークが死ねないと叫ぶ理由が、生きたいからではないことが。
シュルツは、嬉しくもあった。自分が信じるルークが、誰かを想う優しさまで、失っていないことが。

「わかりました」

立ち上がり、ルークの前に膝をつく。シュルツは、腰に提げた譜業銃を抜き、それをルークの前に掲げた。
翡翠の目が、銃を映し、不思議そうに瞬く。

「この命、そして、ルーク・シュルツの名に懸けて、俺は貴方を守ります」
「俺も、この命に懸けて、ルーク様を守ります」

ガイもまた、同じく剣を掲げ、ルークへと誓いを捧げた。
朱色と金色の騎士を見下ろし、ルークが、ありがとう、と唇に柔らかな笑みを滲ませた。


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