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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2009.09.22
ss

シンルク。
外郭大地降下作戦後の話です。シンクとルークとミュウの二人と一匹の旅。
被験者の問題は被験者でどうぞ、な感じで、正体を隠してまったり旅をしてます。
ほのぼの甘めの話。


注!同行者厳しめ(被験者全般)




何なのだ、これは。
普段の冷静さなど欠片もなく、シンクは心底、困惑しきった表情で、自分を包み込む温かな腕に眉根を寄せた。
何なのだ、これは、本当に!
理解できないと、理性が喚く。でも、温かい、と本能が呟く。
足元で、シンクさん、羨ましいですのー、とミュウが鳴いた。

「ねぇ、本当に何なのさ!」

心地いい、と思ってしまった自分を否定するように、シンクは怒鳴った。硬い胸に押し付けられているせいで、その声はくぐもってしまい、予定していたものよりもずいぶん小さくなってしまったけれど、自分を抱きしめている男──ルークには、十分すぎるほどの大きさで届いたようだ。
見上げた先にある、整った顔が、ゆるりと傾いだ。

「あったかく、ねぇ?」
「あったかいけど!…って、そうじゃなくて!何で僕があんたに抱きしめられなきゃいけないんだよ、ルーク!」

正体を隠すために茶色に染めた髪をさらりと揺らし、ルークが笑う。
ふんわりと笑う顔に、どきりとシンクの心臓が跳ねた。
こんな至近距離で、想いを寄せている相手に微笑まれて、動揺しないでいられる人間がいるならば、顔を見せてみろ、とシンクは心のうちで叫ぶ。そうでもしなければ、動揺が顔に出てしまいそうだった。
ルークの翡翠の目に映る幼さの残る顔は、既に赤く染まっていたけれど、シンクがそれに気づくことはなかった。否、全力で気づこうとしなかった。
ミュウが小さく、シンクさん、真っ赤ですの、と言ったことは、ミュウを踏み潰して黙殺した。

「こないださ、見たんだ」
「何をさ」
「母親にぎゅーって抱きしめられて、嬉しそうに笑ってる男の子」
「……」

つまり、それを見て、自分もやってみようと思った、ということなのだろうか。
ルークが母親役となり、自分にその嬉しそうに笑っている男の子の役を勝手に押し付けて。
シンクの眉間にきつく皺が寄った。喉奥から、唸り声も漏れる。
これは間違いなく、子ども扱いされている。

(五年早く生まれたってだけのくせに!)
それなのに、何故、子ども扱いされなくてはならないのだ。
よりにもよって、ルークに。
最悪だ、とシンクは深いため息を吐いた。顔に昇っていた血の気もあっさり引いていく。
これは酷い、酷すぎる。相手にされていないということじゃないか。

踏み潰していたミュウから足をどけ、シンクはぐ、と唇を噛む。ミュウがのそりと起き上がり、ボクもご主人さまにくっつくですの!とルークの足にしがみついた。
ルークがそれを見下ろし、くすぐったそうに、笑う。

(腹立つなぁ、本当)
自分はこんなにルークが好きなのに。自分ばっかりかよ、ちくしょう、とシンクは唸る。
なんだか泣きたくなってきた。

「だからって、僕で試さないでよね」
「試したっつーか」
「何」
「その母親もさ、幸せーって顔してたんだよ。だから、俺もシンクを抱きしめたら、幸せになれっかなぁって」
「…あのさ、僕はあんたの息子じゃないんだけど?子ども扱い、しないでよ」

ムスッ、と口を尖らせ、シンクはルークの胸を押した。
けれど、ルークは腕を緩めず、さらにぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。離してよ!とシンクが叫んでも、ルークは腕の力を一向に緩めなかった。
本気を出せば、ルークの腕の中から抜け出すことは簡単だったが、ルークを傷つけかねなくて、シンクは躊躇った。
断じて、腕の中が心地よくて惜しいからじゃない、と必死で自身に言い訳する。

「もうちょっとだけ、頼むよ、シンク」
「ヤだよ!子ども扱いされるなんて、真っ平だね!」
「違う、違うって」
「何がっ」

何が違うというんだ、とシンクは目尻を吊り上げ、ルークを睨み上げた。
睨み上げて──言葉を失った。
ふにゃ、と翡翠の目を笑みに細め、本当に嬉しそうにルークが笑っていたからだ。その頬が、薄っすらと、赤い。
なんて顔してるんだよ、とシンクの目が揺れ動く。

「シンク、だからだよ」
「…何、それ」
「あの母親も子どもも、相手のことが好きだから、あんなに幸せそうな顔してたんだと思うんだ、俺。だからさ、俺も大好きなシンクのこと抱きしめたら、幸せな顔できるかなぁ、って」

なぁ、シンク。今の俺、どんな顔してる?
小首を傾げ、ルークが問いかけてくる。
ああ、もう、とシンクは呻き、ボスッ、と顔をルークの胸に埋めた。この身長さが、本当に恨めしい。
ボクもご主人さまが大好きだから今、幸せですの、とミュウが笑い声をあげ、俺もミュウが好きだから、幸せだよ、とルークも笑う声を聞きながら、呻く。

(本当に、幸せそうな顔、しちゃってさ)
見たことないくらい、蕩けた顔をルークはしていた。
ああ、あいつらといたときのルークでは、見られなかった顔だな、とふと思う。
ヴァンの妹たちとともにいたときのルークは、今は綺麗な翡翠の目も濁り、笑顔すら零していなかった。いつもいつも空虚な眼差しで、『レプリカ』という扱いから抜け出すことが出来ずにいた。

(僕たちは、レプリカだけど)
確かに、それは否定の出来ない事実だけれど、だからといって、それを理由に被験者たちに蔑まれ、道具扱いされるのは、もう御免だった。
だから、シンクは死を装い、ヴァンたちから離れ、外郭大地を降下させて、国に戻ったルークを、戯れ半分に誘ったのだ。一緒に、二人で被験者に囚われることのない旅でもしてみない、と。

ルークが頷くかどうかは、賭けだった。どっちでもいい、と思っていた。でも出来れば、頷いて欲しいと思っていた。
同じ被験者から生まれた七番目のイオンは、被験者を捨てきれない。それは優しさからだけではなくて、きっと恐怖からでもあったのだろうけれど、シンクにイオンを誘う気はなかった。
イオンの目は、悲しみに満ちてはいても、濁ってはいなかったから。

けれど、ルークの目は、本当に濁っていたのだ。自分と同じように、その眼差しの奥に被験者への嫌悪を、シンクは見て取った。
そして、屋敷の中で、使用人や騎士たちに掌を返したようレプリカと蔑まれていたルークは、シンクの手を躊躇いなく、取った。
おまけもついてきたのは、予想外ではあったけれど、ルークを心から慕うミュウのことは、今ではシンクも気に入っている存在だ。

「なぁ、シンク。どんな顔してるんだよ、俺」
「…わかってるんでしょ、どうせ」
「シンクに、教えて欲しいんだ」

柔らかな喜びに満ちた声で、ルークが言う。
いい声だな、とシンクは小さく笑った。明るい声だ。これがルークの本当の声に違いない。

「……僕と同じ顔、してるよ」

シンクはそう呟き、ルークを見上げた。
ルークがシンクの顔を見つめ、そっか、と嬉しそうにさらに笑みを深める。

「いつかさ」
「うん?」
「僕、絶対、ルークより大きくなるから」

そのときは、僕がルークを抱きしめてあげるよ。
にやりと口角を吊り上げ、宣言し、シンクはルークの襟をくい、と引っ張り、その笑みに綻ぶ唇の先にキスをした。
ルークの顔が真っ赤に染まり、シンクの顔に幸せそうな満面の笑みが広がる。
ミュウが二人とも真っ赤ですの!と楽しげに声をあげ、耳まで赤くなった二人に踏み潰された。


END

 

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