忍者ブログ

月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2010.02.14
ss

ルクノエ。
『陽だまり』シリーズでバレンタインです。ノアノエ。
オールドラントにおけるバレンタインデーを捏造してます。
オールドラントでバレンタインがあるとしたら、こんな感じかなぁ、と。
そろそろ『陽だまり』も目次を作った方がいいかな…?




ことん、と机に置かれたカップから漂うチョコレートの香りに、ノアは本へと落としていた顔を上げた。
見やった先には、マシュマロが浮かんだココアが置いてある。
カカオの香りが鼻腔を擽り、ノアは唾を飲み込んだ。
ゆるゆると溶けていくマシュマロも、バニラのような甘い香りをココアに添えている。

「どうぞ、ノアさん」
「ありがと、ノエル。でも、何でココア?」

いや、好きだけど。
カップを手に取り、ノアは温かな湯気を立ち昇らせているそれに、ふぅ、と息を吹きかけた。
マシュマロがゆらりと動き、表面を滑らかに揺らめく。
そっと唇をカップの縁につけ、ズ、と空気とともにココアを吸えば、口の中にチョコレートの香りが一杯に広がった。
舌の上に、甘くとろけるようなココアと溶けたマシュマロが広がる。
音機関の専門書と睨めっこを続け、溜まった疲労が甘みに癒されていくのがわかる。

「この間、マルクトにアルビオールの教習に行っていたときに、お城のメイドさんから聞いたんです」
「うん?何を?」
「ニ、三年くらい前から、マルクトで流行り始めたイベントがあるって」

にこり、と微笑み、ノエルが教えてくれたイベントは、バレンタインという名のイベントだった。
遠い昔、預言に詠まれていないからと交際を禁じられ、引き裂かれそうになった恋人たちを哀れに思った、とあるローレライ教団の司教がいたのだという。
彼の名がバレンタインといい、彼から名をもらったイベントだとのことだった。
バレンタインは、恋人たちが別れずにすむよう、譜石を捏造し、救おうとしたのだが、もちろん、それは重い罪である。
罪が発覚し、バレンタインは処刑されたが、今でも、恋人たちの守護者だと一部で伝えられ続けてきたらしい。

「でも、ローレライ教団にとっては、罪人だろ、その司教」
「ええ。ですから、ピオニー陛下の代になって、マルクトでは預言が重用されなくなってきたから、みたいですよ。お菓子職人の人たちが何か面白いイベントはないものか、って考え出したらしいです。バレンタインの日には、好きな人にチョコレートを贈りましょうって」
「へぇ。それじゃ、預言がなくなった、これからは、マルクトだけじゃなくて、キムラスカやダアトでも流行るかもな」

(まあ、でも、怪しいもんだけど)
そのバレンタインとやらが、実在していたのかどうか、怪しいものだとノアは思ったが、口には出さなかった。せっかくノエルが楽しそうなのだ。水を差すことはない。
それに、そのバレンタインとやらのおかげで、こうしてノエル特製の甘く、美味しいココアを飲めたのだから、ノアには文句などなかった。
ノアはにっこりと微笑み、ありがとう、と改めて礼を言った。

「他にもあるんですよ」
「へ?」
「メイドさんたちと一緒に、いろいろ買ってきたんですよ。バレンタインのときにしか出回らないものもあるらしくって。せっかくだし、兄さんやおじいちゃん、アッシュさんたちにもと思って」
「ギンジたちにも?」
「お世話になった人にも渡してもいいらしいんですよ。それは、義理チョコって言うらしいですけど」
「義理チョコ…」

話を思い出しながら、語るノエルに、なるほどね、と苦笑する。
何とも的確な言葉だ。
義理にもいくつか意味があるが、この場合は、つきあい上、仕方なしに、というのが正解だろうか。
ノエルの場合、思いやりの心からそうしようと決めたのは、疑いようもないが。
まあ、義理ならば、ノエルからチョコレートをもらっても、許してやるか、とノアは心のうちでアッシュを思い浮かべながら、ココアを啜る。
ダアトにギンジとともに訪れていたアッシュは、そのころ、ぞくりと背筋を這い上がる悪寒を覚えていた。

「でも、ノアさんには、兄さんたちとは別のケーキがありますから」
「別の…?」

その、とノエルが視線を逸らし、頬を赤らめた。
どきりとノアの鼓動が跳ねる。
自分の頬まで熱くなってくるのが、ノアにはわかった。

「ええと、メイドさんたちが言うには、本命には手作りが基本よ!とのこと、らしいので」
「……ノエル」
「ノアさんだけ、特別です」

ふふ、と笑うノエルに、ノアは見惚れた。今すぐ、抱き締めたい衝動に駆られる。
が、オーブンが焼きあがりを知らせるアラームを鳴らし、ノエルが小さく声を上げ、駆けていってしまったために、ノアの両手は虚しく宙を掻いた。

「……まあ、いいんだけどな」

がしがしと、誰が見ていたわけでもなかったが、ノアは一人、気まずげに頭を掻き、苦笑う。
今頃、オーブンからノエルが焼きあがったケーキを取り出していることだろう。見に行こうかとも思ったが、おとなしくココアを飲み、待っていることにした。
程よく冷めたココアを、こくりこくりと飲みながら、ふむ、とノアは目を細める。

(もらってばっか、ってのも、あれだよな)
やはり、何かお返しをしたい。自分の料理の腕はあまり信用できたものではないから、ノエルのように手作りのお菓子を返すことは出来ないが、何かアクセサリーを贈るのはどうだろうか。
ノエルはあまりアクセサリーをつけないが、動くのに邪魔にならないようなものなら、身に着けやすいはずだ。例えば、ネックレスや、イヤリング。ノエルにはどんな宝石が似合うだろうか、とノアは思考を巡らせる。
もしかしたら、マルクトでは、そのお返しの日もイベントとしてあるのかもしれない。後で、マルクトに行ってみるか、とノアは頷く。
音素に溶けて飛んで行けば、マルクトには一瞬で着ける。

キッチンから、甘く香ばしいチョコレートケーキの香りが漂ってきた。
ノエルの楽しげな鼻唄も聞こえる。
ああ、そうだ、とノアは音機関の本を見つめ、ぱちん、と指を鳴らした。
ノエルのために、世界に一つだけの自鳴琴を贈るのはどうだろう。ノエルにぴったりの曲を奏でる自鳴琴を作るのだ。
可憐な音色を奏でる自鳴琴に、顔を綻ばせるノエルが頭に浮かぶ。

(ノエルが喜んでくれると、いいな)
そうと決まれば、自鳴琴屋敷に行って、自鳴琴の仕組みを学ばねば。
だけど、とノアは眉根を寄せ、唸る。
自鳴琴の仕組み自体は、イシターの祖父が残した書面を見れば、何とかなるだろうが、音盤を作るのはやはり難しいかもしれない。

「でも、三百年前の人間が、作ったもんなんだよな」

そう、人間が作ったものなのだ。やってやれないことは、ないはずだ。
よし、とノアは右の手のひらに左手で作った拳を、パシン、と叩きつけた。自分が作り出す初の譜業を、自鳴琴に決める。
譜業のスペシャリストであるディストに相談してみるのも、悪くないだろう。きっと興味を持つはずだ。
にっ、と不敵な笑みを浮かべ、ココアの残りを、ノアはノエルの温かな愛情を味わうように、ゆっくりと飲み干した。


END

 

PR
Post your Comment
Name
Title
Mail
URL
Select Color
Comment
pass  emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
おはようごさいます。
今日はバレンタインデーなのでそれに関する話があるのではと、勝手ながら尊敬と敬愛しているサイト様を巡る中、読ませて頂いたルクノエ!……………じゃなくて、ノアノエ。『陽だまり』シリーズは私自身大好きなシリーズですが、まったりとした幸せに包まれている2人に読み進める内に顔がにやけるのが止まりませんでした。ノエルを抱き締めようとして空振ったり、義理チョコなのにアッシュに嫉妬のような物を一瞬でも抱いたノアと、悪寒を感じたアッシュに思わず苦笑しました。
そういえば、ちょっとした疑問ですが、ノアはアッシュに対しては軽く心中で思う程度でしたが、もしノエルがお世話になっている人全員に義理チョコを渡したら、ノアの許せる範囲はどこまででしょうね?
ピオニー陛下あたりの場合、全力で奪いにいくノアの姿を勝手ながら想像しました。
最後に、長々と文を書き綴り申し訳ありません。これからも、応援させて頂きたいと思います。
リフィス: 2010.02/14(Sun) 08:44 Edit
Re:感想ありがとうございます!
こんにちは、リフィスさん。いらっしゃいませー。
『陽だまり』シリーズを大好きと言って頂けて嬉しいです!
ルクノエというか、ノアノエというか…(笑)
バレンタインで何かルクノエで書きたいな、と考えていたものの、なかなか思いつかなくて、『陽だまり』の二人ならどうするかな、と思いつき、書き上げたものなので、『陽だまり』好きのリフィスさんに楽しんで頂けたようでよかったですー。
『陽だまり』のノアとノエルはほのぼのと甘い生活を送っているイメージなのですが、そんな雰囲気を楽しんで頂けたようでよかったです。
ノアはアッシュに関しては、弟のような存在として捉えているので、なんだかんだ言いながら、可愛がっているんですが、そうですね、ピオニーあたりには、ノエルに関しては容赦ないかもしれません(笑)ピオニーも面白がって、からかおうとするでしょうから、なおさら。
その場合、苦労するのは、アスランなんだろうな…(苦笑)
これからも頑張りますね!
感想、ありがとうございました!
2010/02/17(Wed)
Trackback
この記事のトラックバックURL:
  BackHOME : Next 
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
最新記事
WEB拍手
お礼文として、「アッシュと天使たち」から一本。
アッシュの話です。
楽しんで頂ければ、幸いです。

web拍手
最新コメント
[07/19 グミ]
[02/26 きんぎょ姫]
[02/26 きんぎょ姫]
[05/08 ひかり]
[05/02 ひかり]
リンク(サーチ&素材)
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

月齢 wrote all articles.
Powered by Ninja.blog / TemplateDesign by TMP  

忍者ブログ[PR]