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月齢

女性向けブログ。ネタ語りや小説など。ルーク至上主義。

2025.04.21
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2010.11.27
ss

アシュルク前提アニス話。
ED後、改心したアニスがいます。
帰ってきたけれど、眠り続けている赤い髪の青年はどちらなのか。

注!ティア、ナタリア、ガイに厳しめ




目の前で繰り広げられる言い争いに、アニスは退屈そうに欠伸を零した。
醜いなぁ、と眉間に皺が寄るのがわかる。
本当に、どちらも醜い。

(ぶっさいくな顔)
二人とも、お互いが、どれほどに醜い表情を晒しているのか、気づいていないようだ。
端から見ていると、本当に醜いというのに。

「彼はルークよ!何故、それがわからないの!」
「ティアこそ、何を言ってらっしゃいますの?どう見ても、アッシュではありませんか。あの美しい紅い髪こそ、その証ですわ!」

ぎゃあぎゃあと言い争うティアとナタリアの目は、きつくつり上がっている。
その二人の奥には、一人の青年がベッドに横たわっていた。
静かに目を閉ざし、深い眠りに落ちている。
よく眠っていられるなぁ、とアニスは小さく苦笑する。

(まあ、でも、起きたくないよね)
目覚めたところで待っているのは、醜い女が二人だ。
自分が、彼の立場だったとしても、目を覚ましたくないと思うところだ。
ファブレ邸のルークの部屋で、本当にこの二人は何をしているんだろう、とアニスは呆れる。
ともに壁に寄っているジェイドも、眼鏡のブリッジを押し上げ、呆れたように首を振った。

「たーいさ、どうします?」
「そうですねぇ。彼が目を覚ますのが、一番の解決方法だとは思いますが」
「アニスちゃんだったら、目、覚ましたくないなぁ」
「同感です」

二人揃って、ため息を吐く。
互いに譲ろうとしないティアとナタリアの耳には、自分たち、外野の声は一切、入らないようだ。
それは、ガイも同じだ。
青年の側に佇み、じ、と青年を見つめている。
ガイはティアとナタリアと、どちら側に立つのか。
考えるまでもないか、とアニスは目を眇める。

「ガイ、あなただって、そう思うでしょ?」

ティアが同意を求めるように、ガイに顔を向けた。
ガイは躊躇いなく、ああ、と頷いた。
ここに眠っているのは、ルークだと、しっかりと頷いている。
やっぱりね、とアニスは肩を竦めた。
ナタリアが眦をさらにつり上げ、ガイを睨んだ。

「ルークとアッシュの違いも、貴方にはわかりませんの?!従者失格ですわ!」
「その台詞、君にそっくり返すよ、ナタリア。婚約者かどうかもわからないのかい?」

三人の間に、火花が見えるようだとアニスは厭そうに顔をしかめる。
ティアとガイの二人は、ルークだと主張し、ナタリアはアッシュだと主張している。
その裏には、彼らの願いがあることに、アニスは気づいていた。
とてもとても身勝手な願いが。

ティアは、ルークのことが好きだから。
ガイは、ルークしかいらないから。
ナタリアは、アッシュではないと困るから。
三人とも、エゴの塊だ。

ティアは、どうしてそう思えるのかさっぱりわからないが、自分とルークは好き合っていたと思いこんでいる。
自分が好きなのだから、ルークも自分を好きになるはずだと思っているのだ。
ガイは、ルークは自分のところに帰ってくるのが当たり前だと思い込んでいる。
ルークは自分がいないとダメなのだと、平気で口にするほどだ。
ナタリアは、アッシュを想う気持ちもあるのだろうが、何より、王族であり続けるためにも、アッシュを必要としている。
ナタリアには、王族の血が流れていないから、アッシュという夫が必要なのだ。

「…醜いなぁ、ホント」

ねぇ、そこに眠ってるのに。
アニスは、きゅ、と拳を握り締める。
そこで、眠って聞いている彼は、どれほど辛いだろう。
アッシュであろうと、ルークであろうと、どうして、笑って迎えてあげないのだろう。

(そりゃ、私だって、さ)
アッシュよりも、ルークの方が好きなのは、事実だ。
だって、アッシュのことは、ろくに知らない。
けれど、知っていることはある。
ルークは、アッシュが好きだった。
アッシュも、ルークのことが好きだった。
だから、とアニスは思う。
だから、そこで眠っているのが、アッシュだとしても、おかえり!と笑ってあげたいと。
だって、きっとルークは悲しむから。
アッシュのことも、自分と同じように迎えて欲しいとそう願っているはずだから。

「どっちでもいいよ」

ぽつりと、アニスは呟いた。
ジェイドが、ゆっくりと瞬いている。
そうですね、とはジェイドが答えることはなかった。
何も言わずに、赤い髪の青年を見つめている。
ティアたちには、やはり、アニスの声が届くことはなかった。
ルークだと、アッシュだと、自分のためだけに、彼を決めつけている。

「どっちでもいいよ、私は!」

アニスは、叫んだ。
ティアたちが、訝しげに自分へとやっと顔を向けるのがわかる。
三人の間を、アニスは駆け抜けた。
ベッドに飛びつき、ねぇ、と青年の顔を覗き込む。

「私、どっちでもいいよ、ルークでも、アッシュでも」
「何を言ってるのよ、アニス」
「ティアは黙ってて!ティアだけじゃない、みんなみんな黙っててよ!」

ぎゅう、と強く、シーツを握る。
呆気に取られた三人が、口を噤んだ。
じわ、と涙が目に浮かぶのが、わかる。
ねぇ、とアニスは歪んだ視界で、青年の顔を見つめた。

「私、ルークのこと、好きだよ。アッシュのこともね、ルークがアッシュのこと好きだから、好きになりたいなって思う。…でも、私のことは、嫌いでもいいよ。私、ひどいこと、いっぱい言ったし、したもん。だから、嫌いでいいよ。でも、さ。好きになることだけは、許してくれる?二人のこと、好きになることだけは、許して欲しいんだ」

それでさ、とぼろぼろと頬に涙を伝わらせながら、続ける。
たくさんたくさん、謝らせて下さい。
もちろん、聞きたくないなら、言わないから。
目を覚ましてよ、とアニスは唸る。
目を覚まして、今度こそ。

「今度こそ、ルークもアッシュも幸せになってよ…ッ」

膝から崩れ落ち、アニスはベッドに縋った。
頭では、わかっていた。
きっとそれすらも、無理なんだろうな、と。

(だって、ここには一人しかいないもん)
アッシュであっても、ルークであっても、ここにいるのは、一人だけだ。
それでは、きっと、二人は幸せになれない。
あの二人は一緒でなければ、きっと幸せになんてなれやしない。
だから、だから。
会いたかったけど。約束も、したけれど。

「やくそく、まもってくれたって、わたしはおもうから」

帰るよ、という約束を、守ってくれたと、他の誰が思わなかったとしても、私は思うから。
帰りたいなら、もう帰っていいよ、とアニスはシーツを涙で濡らす。
帰る場所が、いたい場所があるのなら、そっちに行ってもいいよ。
自分たちのことなど、捨てていっていい。

「しあわせになってよぉ」

喉がしゃくりあがり、舌がうまく回らなかった。
うわあん、とアニスは身体を震わせ、泣きじゃくる。
こんなところで、醜い争いを聞いてなどいて欲しくない。
もっと美しく、二人が安らかでいられる場所があるのなら、そっちに行って欲しい。
たとえ、二度と会えなかったとしても。
それでも、二人が幸せな方がいい。

「…ありがとう、アニス」

聞こえた声に、アニスは顔を上げた。
涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃの顔を、青年へと向ける。
翡翠の目が、アニスを映し、柔らかく笑んでいた。
名前は、呼べなかった。
震える唇で、必死でアニスが紡いだのは、「おかえり」という言葉で。

「…さよなら」

だった。
青年が、こくりと頷き、アニスの頬へと手を伸ばす。
涙を拭う指先が、フッ、と光となった。
ティアたちの悲鳴が聞こえる。
ルークと、アッシュと、名を勝手に叫んでいる。
自分にとって、都合のいい名を叫んでいる。
光は広がり、青年が音素となって消えていく。

本当に帰る場所が青年にあることが、アニスには、嬉しかった。
悲しくて、痛くて、流していた涙が、温かなものへと変わっていく。
青年の指先が触れた頬が、温かい。
このぬくもりを、決して、忘れまいと、一人、誓う。

「アニス、よろしければ、これを」
「…ありがと、大佐」

怒り、絶望する三人の脇を抜けてきたジェイドが差し出したハンカチを、アニスは受け取った。
清潔な石鹸の匂いが、真っ白なハンカチからは感じられた。
大佐らしいなぁ、と小さくアニスは笑う。

「しあわせに、なってね」

笑っていてね。
ハンカチを顔に押しつけ、アニスは晴れやかな笑みを、窓から見える空へと向けた。
音譜帯で幸せそうに笑う、ルークとアッシュの顔が、青い空に見えた気がした。


END

 

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